Contraversive Pushingを呈する脳卒中患者に対する直流前庭電気刺激の効果

DOI
  • 湯田 智久
    西大和リハビリテーション病院リハビリテーション部
  • 中村 潤二
    西大和リハビリテーション病院リハビリテーション部 畿央大学大学院健康科学研究科
  • 喜多 頼広
    西大和リハビリテーション病院リハビリテーション部 畿央大学大学院健康科学研究科
  • 岡田 洋平
    畿央大学健康科学部理学療法学科
  • 庄本 康治
    畿央大学大学院健康科学研究科 畿央大学健康科学部理学療法学科

書誌事項

タイトル別名
  • - シングルケースデザインによる検討 -

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抄録

【はじめに、目的】 Contraversive Pushing(Pushing)を呈する脳卒中患者は正中位へ修正しようとする介助に自らの非麻痺側上下肢を使用し強く抵抗してしまう。PushingはADLの向上を阻害し,入院期間が延長すると報告されている。直流前庭電気刺激(Galvanic vestibular stimulation:GVS)は両側の乳様突起に直流電流を流すことで前庭器官を刺激する方法であり,身体の傾斜感覚が生じるとされている。近年,Pushingを呈する脳卒中患者に対しGVSを実施し,即時的にPushingが改善傾向を示した報告がなされている。しかし,反復的にGVSを実施した報告は見られない。そこで,本研究はPushingを呈する脳卒中患者1症例に対して,反復的なGVSが与える影響について予備的に検討することを目的とする。【方法】 症例は多発性脳梗塞を発症し,5ヶ月が経過した80歳代女性である。発症2ヶ月目に当院入院となった。入院時のPushingはScale for Contraversive Pushing(SCP)で3点であり,発症後4ヶ月までにSCPが1.5点に改善した。その後は大きな変化が見られず,発症5ヶ月目よりGVSを用いた介入を開始した。開始時の理学療法所見としてBrunnstrom Recovery stageは左下肢3,Fugl-Meyer Assessment(FMA)の下肢は14点であった。感覚障害,空間無視は認めず,Mini-Mental State Examinationは24点であった。Pushingの評価としてSCPは1.5点,Burke Lateropulsion scale (BLS)は8点であった。Functional Independence Measure(FIM)は66/126点(運動項目35点)で,歩行は四脚杖と短下肢装具を使用し中等度介助レベルであった。研究デザインはシングルケースデザインのABABデザインを用い,A期を標準的理学療法のみとし,B期は標準的理学療法の直前に20分間のGVSを実施した。A期,B期の期間は各1週の計4週間とし,GVSは1週間の内5日間実施した。電気刺激にはインテレクトモバイルスティム(chattanooga社製)を用い,極性は左乳様突起を陰極とし,感覚閾値以下の強度にて背臥位で実施した。評価項目はSCP,BLS,FMA下肢,FIMの歩行項目とし,介入前,A1期後,B1期後,A2期後,B2期後の5回測定した。また,めまい,嘔気等の考えられる副作用は毎日介入前,中,後で聴取した。【倫理的配慮、説明と同意】 本研究は施設長および主治医の了承を得た。本介入はヘルシンキ宣言に基づき対象者に本研究の趣旨を書面にて説明し,同意を得たのちに評価,介入を行った。【結果】 BLS(点)はA1期,B1期,B2期で改善を示した(介入前:8,A1期後:7,B1期後:4,A2期後:4,B2期後:2)。項目別ではA1期では立位項目が3から2,B1期では座位項目が1から0,移乗項目が2から1,歩行項目が2から1,B2期では立位項目が2から1,移乗項目が1から0へと改善を示した。FIMの歩行項目(点)はB1期,A2期,B2期で改善を示した(介入前:2,A1期後:2,B1期後:3,A2期後:4,B2期後:5)。SCP,FMA下肢は変化がなかった。また,めまい,嘔気等の副作用はなかった。【考察】 Pushingは発症後6ヶ月まで改善する可能性があると報告されているが,本症例においてB1期,B2期で特にBLSが改善し,B1期以降でFIMの歩行項目に改善が得られたことから,GVSがPushingの軽減に関与し,歩行介助量の軽減につながったことが考えられる。前庭感覚を処理する前庭皮質は視覚や固有受容感覚等の様々な感覚を統合し,姿勢制御や空間認知に関与するとされている。これらのことから,GVSを実施し前庭皮質の活動性を高めた状態で標準的理学療法を実施したことが,BLSが改善した要因として考えられる。また,SCPで変化が認められず,BLSで改善を認めた要因は,BLSの評価項目が多く,その段階付けが細かいためであると考えられる。本介入では副作用の報告もなく,安全に実施することが可能であり,反復的なGVSはPushingに対して効果がある可能性がある。今後は更なる症例数の蓄積や比較対照群の設定により,その効果を明らかにする必要がある。【理学療法学研究としての意義】 本研究はPushingを呈した脳卒中患者に対して反復的にGVSを実施した初の試みである。本法は副作用なく,Pushingを軽減させる治療法となる可能性がある。

収録刊行物

  • 理学療法学Supplement

    理学療法学Supplement 2012 (0), 48101435-48101435, 2013

    公益社団法人 日本理学療法士協会

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