脳血管障害者における動脈硬化が起立負荷時の循環応答に与える影響

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抄録

【目的】脳血管障害者に対する理学療法に起立歩行動作は不可欠であり,その際の循環応答の確認も重要である.我々は,前年度本学会において,脳血管障害者に対する起立初期時の血圧低下の特徴を報告したが,体位変化による血圧の変化を決定する因子は必ずしも明らかではなく,脳血管障害者の基礎疾患でもある動脈硬化が関与している可能性を示唆したものの十分には解明されていない.動脈硬化の評価指標として頸動脈超音波検査による総頸動脈内膜中膜複合体厚(intima-media thickness:IMT)があり,脳卒中発症との関係なども報告されている.そこで本研究では,脳血管障害者に対する起立負荷時の循環応答を観察し,総頸動脈IMTを用いて動脈硬化の影響について検討することを目的とした.【方法】対象は発症後48.3日の男性脳血管障害者10名(脳卒中群,梗塞4名,出血6名,平均年齢56.1歳,modified Rankin Scale2~4),健常男性9名(健常群,平均年齢55.6歳)とした.測定項目は,血圧,心拍数,総頸動脈IMTとし,血圧,心拍数は電子非観血式血圧計にて非麻痺側上腕動脈より測定した.総頚動脈はIMT超音波エコー(TOSHIBA社製Xario)を用いて,非損傷側総頚動脈より測定した.計測部位は,内頸外頚動脈分岐部より遠位の総頸動脈部とし,超音波プローブ(7.5MHz)を当て,Bモード法を用い縦断画像を描出,深部の壁面を測定壁面とし,内膜の内側から外膜の内側まで計測した. 測定は,食事後2時間以上の経過,室温25℃の条件下で行った.手順は,Tilt table上で安静臥位をとった後,60度10分間の起立,及び再度背臥位とし,この間に血圧,心拍数を1分毎に測定した.血圧・心拍数の起立時変化率を各群内及び2群間で,総頸動脈IMTを2群間で比較検討し,さらに総頸動脈IMTと起立1分時の平均血圧変化率の相関係数を確認した.統計処理にはBonferroniの多重比較検定,t検定,及びPearsonの相関係数を用い危険率1%未満を有意とした.【倫理的配慮、説明と同意】本研究は星城大学倫理委員会の承認を受け,被験者には研究の主旨と方法を十分に説明,同意を得てから施行した.【結果】起立時平均血圧では,脳卒中群が起立1分時に安静時と比較して-7.9%と有意な低下(p<0.01)を認めたが,健常群では有意な変化を認めなかった.また,2群間の比較では,脳卒中群が健常群よりも有意に低い値(p<0.01)を示した.2分以降,平均血圧は回復し2群間に差を認めなかった.心拍数は脳卒中群,健常群と共に,起立後増加し(p<0.01),以後これを維持し,2群の間に差を認めなかった.総頸動脈IMTでは,脳卒中群1.11±0.22mm,健常群0.68±0.11mmと脳卒中群が健常群よりも有意により大きく肥厚していた(p<0.01).また,総頸動脈IMTと起立1分時血圧変化率との間に有意な相関を認めた(r=0.68;p<0.01). 【考察】本研究の結果から脳卒中群の体循環では,平均血圧が起立後1分時のみ低下したが,即時の心拍上昇を認め,その後の血圧は回復し維持された.総頸動脈IMTでは,脳卒中群が増加し,健常群と有意差を認めた.また,総頸動脈IMTと起立1分時血圧変化率との間に有意な相関を認めた.総頸動脈IMTに関して,1mm以上が脳卒中の発症リスクを増加させることが報告されている.脳血管障害者では,高血圧,脂質代謝異常などの基礎疾患を有しており,これらが動脈硬化を惹起し,その結果脳卒中発症に至っていることから,同世代の健常者よりもより大きな総頸動脈IMTを認めたと考えられる.また動脈硬化は,高血圧者や健常高齢者における起立に伴う血圧調節不全の原因の一つと指摘されている.今回の脳血管障害者において,起立直後に血圧低下を認めたものの,起立後即時の心拍上昇,2分以降血圧は回復しており,圧反射は鈍化した反応ながらも正常に作動をしていた.この鈍化した反応の原因には,総頸動脈IMTと起立1分時血圧変化率との間に相関を認めたことから,圧受容器の感受性低下や末梢血管の動脈硬化等の影響が考えられた.【理学療法学研究としての意義】頚動脈エコーによる脳血管障害者及び健常者の動脈硬化因子及び,それに伴う循環応答の一端を確認することができた.理学療法を行う上で脳血管障害者の血圧調節を理解し,起立負荷の安全性を循環応答の点から認識することも重要である.

収録刊行物

  • 理学療法学Supplement

    理学療法学Supplement 2012 (0), 48101457-48101457, 2013

    公益社団法人 日本理学療法士協会

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