後ろ歩きの運動学的分析

DOI
  • 植木 努
    平成医療短期大学リハビリテーション学科理学療法専攻
  • 曽田 直樹
    平成医療短期大学リハビリテーション学科理学療法専攻

書誌事項

タイトル別名
  • 関節角度と床反力に関する検討

抄録

【はじめに】後ろ歩き(以下,後方歩行)は前方への歩行と比較し,難易度の高い動作であるとされており,動的なバランス能力の向上や,歩行トレーニングの一環としてリハビリテーションに取り入れられている.後方歩行に関する先行研究において,A. Thorstenssonは,後方歩行は前方歩行と比較し,股関節,膝関節,足関節の変位角度は類似したパターンを示したと報告している.しかし後方歩行は前方歩行より歩幅が減少することや,歩行速度が同じであれば歩行率が高くなることから,関節角度に違いが生じる事を示唆する報告もあり,関節角度や運動範囲に関しては一定の知見は得られていない.また歩行の特徴を知る上で床反力は重心に作用する慣性力の加速度変化を反映する事から,重心の速度や変位を推定する重要な指標であるが,後方歩行に関して床反力を用いた研究はあまり見られない.そこで本研究は後方歩行時の下肢の関節角度と床反力を測定し,後方歩行の運動学的特徴を明らかにすることを目的とした.【方法】対象者は健常男性11名(男性7名,女性4名),身体特性は年齢23.8±4.6歳,身長167.5±8.5cm,体重59.9±12.6kgであった.下肢関節角度の計測には三次元動作解析システムVICON NEXUS(VICON社製,カメラ6台)を用いた.サンプリング周波数は100 Hzとした.マーカー貼付位置は,plug-in-gait Full body model(VICON社製)に準じ,直径14mmの赤外線反射マーカーを貼付した.床反力の計測は2台の床反力計を用いた.サンプリング周波数は1000Hzとした.測定課題は前方と後方への自然歩行とし,それぞれの課題において歩行が安定した3施行のデータを解析に使用した.反射マーカーの経時的座標データから右下肢の立脚期における股関節屈曲・伸展,膝関節屈曲・伸展,足関節底屈・背屈の最大角度と運動範囲を算出した.また床反力は立脚初期から立脚中期間の前後方向と鉛直方向のベクトルの最大値を抽出し,体重による百分率を算出した.統計学的分析は,各測定データの前方と後方の比較に関して対応のあるt検定を用いた.有意水準は5%とした.【倫理的配慮】全ての対象者に対し本研究の趣旨及び方法を十分に説明し,書面にて参加の同意を得たうえでヘルシンキ宣言を遵守しながら実施した.なお本研究は本大学の倫理委員会の承認を得て実施した.【結果】関節角度は,股関節屈曲は前方歩行が24.6±3.3°,後方歩行が24.8±7.0°,伸展は前方歩行が16.1±4.9°,後方歩行が9.5±8.1°,運動範囲は前方歩行が40.7±2.94°,後方歩行が34.3±3.6°であり,伸展角度と運動範囲において後方歩行では有意に小さい値を示した(p<0.05).足関節の底屈では前方歩行が9.7±6.7°,後方歩行が10±7.5°,背屈は前方歩行が10.0±13.7°,後方歩行が20.8±5.3°,運動範囲は前方歩行が23.4±4.7°,後方歩行が30.9±8.8°であり,背屈角度と運動範囲において後方歩行では有意に大きい値を示した(p<0.05).膝関節の最大角度及び運動範囲に有意差は認められなかった.立脚初期から中期間における床反力ベクトルの最大値は前後成分では前方歩行が-17.2±3.4%,後方歩行が-19.6±5.2%,鉛直成分では前方歩行が103.5±7.5%,後方歩行が124.6±9.9%であり,鉛直成分において後方歩行が有意に高い値を示した(p<0.05).【考察】後方歩行では立脚期の股関節最大伸展角度が小さくなることが示唆された.歩行時における立脚初期の股関節の角度は歩幅と進行方向への重心の移動量に影響することから,伸展角度の減少は後方歩行の歩幅の減少に関係している可能性が考えられ,また歩幅を小さくし重心の移動距離を少なくすることで,歩行時の重心の安定性を確保しているのではないかと考えられる.また後方歩行では前方歩行と比較し立脚初期の鉛直成分が大きいことが示唆された.このことは立脚初期におけるinitial contactの衝撃吸収機能の低下を示唆するものと考える.そして衝撃吸収機能の低下は,後方への推進力を減少させる要因の1つとなるのではないかと考えられる.【理学療法学研究としての意義】後ろ歩き時の下肢関節角度と床反力の特徴の一端が提示され,後ろ歩きを利用した理学療法を行う上で有用な情報となる事が期待される.

収録刊行物

  • 理学療法学Supplement

    理学療法学Supplement 2012 (0), 48101506-48101506, 2013

    公益社団法人 日本理学療法士協会

詳細情報 詳細情報について

  • CRID
    1390001205574755456
  • NII論文ID
    130004585723
  • DOI
    10.14900/cjpt.2012.0.48101506.0
  • 本文言語コード
    ja
  • データソース種別
    • JaLC
    • CiNii Articles
  • 抄録ライセンスフラグ
    使用不可

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