運動器不安定症外来女性患者のビタミンD濃度と身体機能・生活機能の関連

DOI
  • 安彦 鉄平
    東京都リハビリテーション病院リハビリテーション部理学療法科 首都大学東京人間健康科学研究科理学療法科学域
  • 島村 亮太
    東京都リハビリテーション病院リハビリテーション部理学療法科 首都大学東京人間健康科学研究科理学療法科学域
  • 小川 大輔
    首都大学東京人間健康科学研究科理学療法科学域 目白大学保健医療学部理学療法学科
  • 安彦 陽子
    東京都リハビリテーション病院リハビリテーション部理学療法科
  • 宮﨑 純弥
    神戸国際大学リハビリテーション学部理学療法学科
  • 相馬 正之
    東北福祉大学健康科学部リハビリテーション学科
  • 丹野 亮
    東京都リハビリテーション病院整形外科・リウマチ科
  • 林 泰史
    東京都リハビリテーション病院整形外科・リウマチ科

抄録

【はじめに、目的】 2006年4月の介護保険法の改正に伴い予防重視型システムへと改められ,筋力をはじめとする運動器の機能向上,栄養改善,口腔機能の向上など包括的な介護サービスが導入されることとなった。そのひとつの栄養に関しては,血清アルブミン値がもっとも重要な指標とされているが,近年,高齢者の身体機能や生活機能において,血清ビタミンD濃度の維持も重要であることが明らかになってきている。また,2006年4月の予防型重視システムへの変更と同じ時期に,運動器の機能向上を目的に運動器不安定症という疾患名が新たに制定された。そこで,予防型システムへの変更の際に重要とされた栄養と,新たに制定された運動器疾患を有した転倒リスクのある運動器不安定症患者の身体機能の関連性を調査することは,健康寿命を延伸するための医療機関での治療や,介護保険による転倒予防や介護予防にとって有益な情報になりえると推測される。そこで本研究の目的は,運動器不安定症外来患者を対象にビタミンDと身体機能・生活機能との関連性を明らかにすることとした。【方法】 対象は運動器不安定症と診断された48名の女性とし,対象者の年齢の平均値±標準偏差は71.5±9.7歳,身長と体重は146.2±6.2cm,49.2±8.8kgであった。運動器の主な疾患の内訳は,関節リウマチ14名,骨粗鬆症11名,腰部脊柱管狭窄症9名,変形性関節症9名,脊髄障害2名,下肢骨折3名であった。測定項目は,ビタミンD濃度,疼痛(NRS),膝関節伸展筋力(膝伸展筋),片脚立位時間(OLS),Timed Up and Goptest(TUG),Berg Balance Scale(BBS),10m歩行最短所要時間(MWT),老研式活動能力指標(TMIG)とした。ビタミンD濃度を反映する指標は,血液検査にて25-HydroxyvitaminD 125I RIA Kit (DisSorin社)を用い,25(OH)Dを測定した。なお,採血は医師または看護師によって実施された。 統計学的解析は,単変量解析についてはNRS,BBS,TMIGについてはSpearmanの順位相関係数を求め,その他の項目についてはPearsonの相関係数を用いた。多変量解析は,運動器不安定症の診断基準とあるOLSとTUGを目的変数とし,単変量解析にて有意な相関を認めた測定項目を説明変数とした重回帰分析(ステップワイズ法)を用いた。すべての統計解析にはSPSS ver11.5Jを用い,統計学的有意水準は5%とした。【倫理的配慮、説明と同意】 すべての対象者に本研究の目的と方法を説明した後,検査・測定を実施した。なお,本研究は当院の研究安全倫理委員会の承認を得た後,実施した。【結果】 単回帰分析にてビタミンDと膝伸展筋(r=0.39),OLS(r=0.55),BBS(r=0.36),MWT(r=-0.33)で有意な相関を示した。OLSを目的変数とした重回帰分析で有意な関連要因として抽出された因子は,ビタミンD(p<0.01),BBS(p<0.01)であった。決定係数は0.53であった。同様にTUGを目的変数とした重回帰分析で有意な関連要因として抽出された因子は,BBS(p=0.03),MWT(p<0.01)であった。決定係数は0.80であった。【考察】 ビタミンDが欠乏した筋組織像では,Ⅱ型筋線維の萎縮とともに筋線維間の拡大,脂肪浸潤,線維化とグリコーゲン顆粒などが認められている。また,ビタミンDの骨格筋に対する影響として,ビタミンD濃度と筋力との間には正の相関があることが明らかになっている。さらに,ビタミンD欠乏症のくる病患者では,一般的に筋力低下に加え,筋緊張低下がみられ,そのためにバランス能力の低下が生じていると考えられている。筋緊張低下に関しては,筋緊張が低下することで筋活動が適切なタイミングで生じず,遅延し,ステップ反応や立ち直り反応を減弱,消失することでバランス能力が低下すると推測されている。これらのビタミンD欠乏による骨格筋への影響の結果,単変量解析の結果で生じたビタミンDと膝伸展筋,OLS,BBSの得点,MWTで有意な相関を認めたと考えられる。 運動器不安定症の診断基準であるOLSとTUGの時間に影響を及ぼす因子を検討した重回帰分析の結果,OLSではビタミンD,BBSが説明変数として抽出された。ビタミンDについては,筋の生理的作用に影響を及ぼすため,下肢や体幹の筋力や筋緊張と関連があるOLSと関連があったと推測される。また,BBSが説明変数として抽出された要因は,BBSの評価項目の中の片脚立位が含まれていることで説明変数として抽出されたと考えられる。そのため,ビタミンD濃度が高く,BBSの得点が大きい対象者ほど,OLSの値が大きくなることが予測される。【理学療法学研究としての意義】 ビタミンD濃度は,運動器不安定症女性患者の身体機能を示す有用な指標のひとつでなることが示唆された。

収録刊行物

  • 理学療法学Supplement

    理学療法学Supplement 2012 (0), 48101515-48101515, 2013

    公益社団法人 日本理学療法士協会

詳細情報 詳細情報について

  • CRID
    1390001205574745216
  • NII論文ID
    130004585731
  • DOI
    10.14900/cjpt.2012.0.48101515.0
  • 本文言語コード
    ja
  • データソース種別
    • JaLC
    • CiNii Articles
  • 抄録ライセンスフラグ
    使用不可

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