病棟内歩行が自立した脳卒中片麻痺患者の麻痺重症度別の歩行速度の推移について

DOI
  • 平 勝也
    沖縄リハビリテーションセンター病院メディカルホールちゅらうみ
  • 武村 奈美
    沖縄リハビリテーションセンター病院メディカルホールちゅらうみ
  • 山城 貴大
    沖縄リハビリテーションセンター病院メディカルホールちゅらうみ
  • 濱川 みちる
    沖縄リハビリテーションセンター病院メディカルホールちゅらうみ
  • 清水 忍
    北里大学医療衛生学部
  • 松永 篤彦
    北里大学医療衛生学部

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抄録

【はじめに、目的】我々は先行研究(第29回日本私立医科大学理学療法学会、平成23年度日本理学療法士協会研究助成)において,脳卒中片麻痺患者(片麻痺者)の病棟内歩行自立の可否を規定する有力な因子の一つとして歩行速度が挙げられることを報告した.つまり,片麻痺者の病棟内歩行の自立度を決定する際には,歩行速度を一つの目安をすることが可能で,その歩行速度内での実用性を確かめながら進めていくことになる.しかし,歩行速度自体が下肢麻痺の重症度に左右されることから,歩行自立までに到達できる歩行速度やその推移が麻痺の重症度によって異なることが予想されるが,経時的に片麻痺者の歩行速度を調査した報告は極めて少ない.片麻痺者の下肢麻痺の重症度別に歩行自立に至る推移がわかれば、自立度を判定する至適時期や歩行速度の達成度合いを推し量れ,歩行自立の為の介入の時期と内容についても決定し易くなると思われる.そこで,本研究では、病棟内歩行が自立に至った片麻痺者を後方視的に調査し,下肢麻痺の重症度別に歩行速度の推移を検討した.【方法】対象は,リハビリテーション目的で当院に入院した片麻痺者とした.採用基準は,歩行速度を測定する際に、10m間を介助なし(見守り,歩行補助具,装具は許可)で歩行可能な者,病棟内の移動手段が入院時は車いすであったが入院中に歩行自立(歩行補助具と装具は許可)となった者、および病棟内の歩行自立に至った時期が特定され,発症から歩行自立に至るまでの期間のうち,少なくとも後半の期間において歩行速度が連続して測定可能であった者とした.測定項目は,患者背景因子として年齢と麻痺側,歩行に関する項目として歩行速度,Stroke Impairment Assessment Setの下肢遠位テスト(foot-pat test)および移動手段とした.歩行に関する項目はそれぞれ継時的に評価し、歩行速度については距離10m間の最大歩行速度(MWS)を毎週,foot-pat testと移動手段は入院時より毎4週の頻度で評価した.また,移動手段は病棟内において車椅子を必要とするか,否か(歩行自立)のいずれかに判別した.解析方法は,発症から病棟内歩行自立に至るまでの期間におけるfoot-pat testが0~2点だった者を麻痺重度群,3~5点だった者を麻痺軽度群の2群に分類したうえで,発症から病棟内歩行自立に至るまでの期間,歩行自立に至った時点でのMWSの差異を対応のないt検定を用いて検討した。さらに群別に,歩行自立に至った時点から1週毎に遡り,歩行自立時のMWSとそれ以前の時期のMWSの差異を対応のあるt検定を用いて検討した.統計学的有意水準は危険率5%未満とした.【説明と同意】対象者には本研究の趣旨を十分に説明した上で同意を得,院内の倫理委員会の同意を得てデータを使用した.【結果】採用基準に合致した症例は22例(麻痺重度群:10例,平均58.5±10.85歳,左麻痺4例.麻痺軽度群:12例,平均69.58歳,左麻痺7例)であった.発症から歩行自立までの期間は麻痺軽度群が11.66±4.39週,麻痺重度群が18.0±3.94週であり,麻痺重度群の方が有意に自立に至るまでの期間が長かった.麻痺軽度群の歩行自立時のMWS(48.29±18.26m/min)は麻痺重度群(30.9±8.5m/min)と比べて有意に高かった。また、麻痺軽度群の歩行自立時のMWSと過去に遡った時期のMWSとの差異を比較すると,歩行自立前1週目と有意な差異が認められた。一方,麻痺重度群では歩行自立前3週目の時点までに遡っても自立時のMWSとの間に差がなく,歩行自立前4週目で差異が認められる結果となった.【考察】片麻痺者の下肢麻痺の軽度群と重度群とでは,病棟内歩行自立に至る時期とその時点のMWSに大差があり,特にfoot-pat test 3点以上の片麻痺者は歩行時に足関節のコントロールが可能であることから,MWSとその改善度合いも大きくなったと考えられた。歩行速度の推移を比べると,軽度群では歩行自立時のMWSと僅か1週前のMWSとの間に差異があることから,歩行自立までの歩行速度の改善が急峻であることが認められた。一方,重度群では自立時から約3週遡ってもMWSに差異がなく,歩行自立に至る数週間前にはすでに歩行速度の改善がプラトーになっていることが認められた.このことから,下肢麻痺の軽度例では概ね11週前後を目安とし,到達している歩行速度で自立度を推し量ることができるが,麻痺重度例では概ね18週前後を目安にするとしても歩行速度はその自立時期の数週間前から変化しない可能性があり,周辺環境整備や環境に応じたスキルの獲得等に焦点をおいた介入が必要と考えられた.【理学療法学研究としての意義】片麻痺者の下肢麻痺の重症度によって歩行自立に至るまでの歩行速度の推移や自立の時期が異なることを示した.歩行速度の推移を観察することは歩行自立に向けてのアプローチを組み立てるうえで重要な視点となる.

収録刊行物

  • 理学療法学Supplement

    理学療法学Supplement 2012 (0), 48101588-48101588, 2013

    公益社団法人 日本理学療法士協会

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