健常者における頸椎の回旋および側屈の運動解析

DOI
  • 上田 泰久
    文京学院大学 保健医療技術学部 理学療法学科 国際医療福祉大学大学院 福祉援助工学分野
  • 福井 勉
    文京学院大学 保健医療技術学部 理学療法学科 文京学院大学大学院 保健医療科学研究科
  • 宮本 秀臣
    インターリハ株式会社
  • 山本 澄子
    国際医療福祉大学大学院 福祉援助工学分野

抄録

【目的】 臨床において,頸椎疾患の症例では頸部周囲の軟部組織や身体アライメントは左右で非対称なことが多い。さらに,頸椎の回旋および側屈の可動域や組み合わせ運動を評価すると左右で非対称な動きが観察できる。我々は先行研究において,頸椎の回旋および側屈には上半身質量中心位置(Th7-9)の変位,左右肩峰の高低差および左右僧帽筋の硬度差が影響を及ぼしていることを報告してきた。特に上半身質量中心位置(Th7-9)の変位や左右肩峰の高低差は健常者でも多く認められ,回旋および側屈の可動域や組み合わせ運動は左右で異なると考えられる。本研究の目的は,健常者における頸椎の回旋および側屈の可動域や組み合わせ運動を左右で比較して検討することである。【方法】 対象は健常な成人男性20名(年齢20.5±2.6歳,平均身長171.3±4.8cm,体重64.8±5.8kg)とした。計測肢位は40cm台上で両上肢を下垂させた座位姿勢とした。対象者の身体特性を把握するために,軟部組織の硬度および身体アライメントを計測した。軟部組織の硬度の計測には筋硬度計PEK-1(井元製作所製)を用いて,左右の僧帽筋上部線維(以下,僧帽筋)および斜角筋群,胸鎖乳突筋を計測した。計測部位は,僧帽筋は先行研究に準じてC7と肩峰の中点,斜角筋群は後頸三角,胸鎖乳突筋は乳様突起と鎖骨の胸骨端の中点にセンサーを当てた。身体アライメントの計測には超音波方式3次元動作解析システムCMS-20S(Zebris社製)を用いて,専用ポインターで左右肩峰,頸切痕,剣状突起の計4カ所をマーキングして三次元の位置データを収集し,左右肩峰の高さや胸骨の傾斜方向を確認した。頸部の可動域の計測には同様の機器を用いて,専用のマーカーセットを装着して左右回旋と側屈の最大可動域を計測した。さらに,最大回旋に伴う組み合わせ運動(屈曲-伸展,側屈)と最大側屈に伴う組み合わせ運動(屈曲-伸展,回旋)を算出して比較した。なお,回旋では頭位を水平にした運動,側屈では前方を注視した運動になるよう課題を統一した。計測は各3回ずつ実施して平均を代表値として用いた。統計処理には,軟部組織の硬度および回旋および側屈可動域と組み合わせ運動の左右を比較するために対応のあるt検定を用いた。統計解析には,PASW Statistics18を用いて有意水準は全て5%未満とした。【説明と同意】 本研究はヘルシンキ宣言に基づき,対象者には研究の内容を十分に説明して,本人に承諾を得た後に計測を実施した。なお,本研究は本学倫理審査の承認を得たのちに実施した。【結果】 軟部組織の筋硬度は,僧帽筋および斜角筋群や胸鎖乳突筋には左右で有意な差を認めなかった。身体アライメントは,右肩峰が低いものが14名(70%),左肩峰が低いものが6名(30%)であった。胸骨が右傾斜しているものが14名(70%),左傾斜しているものが6名(30%)であった。回旋可動域は,右回旋57.5±7.1°,左回旋58.9±8.2°であった。側屈可動域は,右側屈32.2±4.8°,左側屈32.0±5.7°であり,回旋および側屈可動域ともに左右で有意な差を認めなかった。組み合わせ運動は,右回旋には屈曲-伸展-13.8±6.6°と右側屈2.0±10.1°,左回旋には屈曲-伸展7.2±6.6°と左側屈2.2±11.1°を伴い,屈曲-伸展で有意差を認めた(p<0.01)。右側屈には屈曲-伸展-2.0±6.2°と右回旋7.2±7.1°,左側屈には屈曲-伸展-5.2±7.6°と左回旋10.5±8.6°を伴い,屈曲-伸展と側屈で有意差を認めた(p<0.05)。【考察】 健常者では頸部周囲の軟部組織(僧帽筋,斜角筋群,胸鎖乳突筋)には左右差がなかったが,身体アライメント(肩峰高低差や胸骨の傾斜)は左右で異なる傾向であった。先行研究においても肩峰や骨盤帯は左右非対称であり(Dieck1985,長久保1995),骨盤帯の非対称性は腰椎の運動の左右差と関連があるとも報告されている(Al-Eisa2006)。本研究においても,健常者では左右肩峰の高さに違いがあり,胸骨もどちらか一方へ傾斜している傾向で,これらが頸椎の回旋および側屈の組み合わせ運動に影響を及ぼしていると考えられる。特に,回旋および側屈の組み合わせ運動では屈曲-伸展が左右で異なり,頸椎の運動を観察する際は矢状面運動にも着目した評価が重要であることが示唆された。今後,身体アライメントとの関係を詳細に検証して頸椎疾患の症例と比較することが課題である。【理学療法学研究としての意義】 本研究では,健常者における頸椎の回旋および側屈に伴う組み合わせ運動の解析を行った。健常者では頸椎の回旋や側屈可動域に左右差はないが,組み合わせ運動には左右差があることがわかった。今後,健常者と頸部痛の症例で可動域や組み合わせ運動を比較して検証していく。本研究は,頸部疾患における回旋や側屈の運動を評価する際の基礎的情報となり,理学療法学研究として意義があるものと考える。

収録刊行物

  • 理学療法学Supplement

    理学療法学Supplement 2012 (0), 48101612-48101612, 2013

    公益社団法人 日本理学療法士協会

詳細情報 詳細情報について

  • CRID
    1390001205575265536
  • NII論文ID
    130004585806
  • DOI
    10.14900/cjpt.2012.0.48101612.0
  • 本文言語コード
    ja
  • データソース種別
    • JaLC
    • CiNii Articles
  • 抄録ライセンスフラグ
    使用不可

問題の指摘

ページトップへ