廃用性筋萎縮とその後の再成長に伴う骨格筋組織内angiopoietin 1/Tie-2 の発現応答

DOI
  • 生田 旭洋
    豊橋創造大学大学院健康科学研究科 特定医療法人宝美会 総合青山病院 リハビリテーション技術室
  • 後藤 亜由美
    豊橋創造大学大学院健康科学研究科
  • 鈴木 美穂
    豊橋創造大学大学院健康科学研究科
  • 大野 善隆
    豊橋創造大学保健医療学部
  • 後藤 勝正
    豊橋創造大学大学院健康科学研究科 豊橋創造大学保健医療学部

抄録

【はじめに】骨格筋に対する負荷量の増大は筋肥大をもたらし、逆に不使用や不活動などによる負荷量の減少は筋萎縮をもたらすことはよく知られている。こうした骨格筋の可塑性発現には、骨格筋組織幹細胞である筋衛星細胞が重要な役割を演じていると考えられている。一方、骨格筋組織における毛細血管網は骨格筋細胞への酸素やエネルギー基質の供給や代謝産物輸送経路として重要である。したがって、骨格筋量の変化と骨格筋細胞を栄養する毛細血管構築には、相互に情報を交換し合うネットワーク機構の存在が示唆される。毛細血管の構築に関しては、血管内皮細胞増殖因子(VEGF)および血管内皮周囲細胞由来の血管内皮新生因子であるangiopoietin 1 とその受容体であるTie-2 が知られている。このangiopoietin 1/Tie-2 は、血管内皮細胞と壁細胞の接着を促進することにより新生血管の安定化に寄与する因子であるが、最近になって活性化した筋衛星細胞を休止期へ移行させる作用を持つことが報告された。したがって、angiopoietin 1/Tie-2 は骨格筋量の制御に関与していることが示唆されるが、骨格筋量の変化に伴うangiopoietin 1/Tie-2 の発現応答については不明な点が多い。そこで本研究では、廃用性筋萎縮とその後の再成長に伴う骨格筋組織内angiopoietin 1/Tie-2 の発現量の変化を検討することを目的とした。【方法】実験には、生後11 週齢の雄性マウス(C57BL/6J)のヒラメ筋を用いた。マウスに対して、2 週間の後肢懸垂を負荷し、荷重除去によりヒラメ筋を萎縮させた。さらに懸垂終了後、通常飼育に戻すことで、ヒラメ筋への荷重を再開し、その状態で4 週間飼育した。マウスは気温23 ± 1℃、明暗サイクル12 時間の環境下で飼育し、餌および水は自由摂取とした。懸垂開始後、経時的にマウス両後肢よりヒラメ筋を摘出し、即座に結合組織を除去した後、筋湿重量を測定した。筋湿重量測定後、液体窒素を用いて急速凍結し、−80℃で保存した。得られたサンプルを用いて、ウェスタンブロット法にてangiopoietin 1/Tie-2 タンパクの発現を定量評価した。【倫理的配慮、説明と同意】本研究は、豊橋創造大学の「動物実験に関する規程」に従い、豊橋創造大学生命倫理委員会の審査・承認を経て実施した。【結果】後肢懸垂により、ヒラメ筋の筋湿重量ならびに筋タンパク量の減少が認められた(p<0.05)。したがって、本研究で用いた処置法によりヒラメ筋に筋萎縮を引き起こすことができたと判定した。後肢懸垂により、骨格筋組織内のangiopoietin 1/Tie-2 の発現量の低下が認められた(p<0.05)。また、懸垂終了2 および4 週後では、angiopoietin 1/Tie-2 の発現量の増加が観察された。【考察】骨格筋萎縮に伴うangiopoietin 1/Tie-2 タンパクの発現の減少が確認された。このangiopoietin 1 とその受容体であるTie-2 は血管新生因子であるが、血管内皮細胞、繊維芽細胞、筋細胞などの近隣細胞から自己分泌・傍分泌される。筋萎縮に伴いangiopoietin 1/Tie-2 タンパクの発現を低下させることで、血管新生の抑制や筋衛星細胞の活性を抑制し、逆に萎縮筋の再成長時には、血管新生や筋衛星細胞の増殖を促しているものと考えられた。したがって、骨格筋可塑性に関与する筋衛星細胞と血管内皮細胞は、angiopoietin 1/Tie-2 を介してクロストークすることで、組織としての骨格筋機能を制御していることが示唆された。【理学療法学研究としての意義】骨格筋の量的変化に伴う異種細胞間でのクロストークに関する研究はこれまでになく、本研究の成果は骨格筋可塑性発現のメカニズムの解明へ発展する可能性があると考えている。骨格筋可塑性発現の分子機構が解明されれば、骨格筋の廃用性萎縮の予防や早期回復策の開発が可能となると考えている。本研究の一部は、日本学術振興会科学研究費(挑戦的萌芽, 24650411;基盤研究A, 22240071)ならびに私立学校振興・共済事業団による学術振興資金の助成を受けて実施された。

収録刊行物

  • 理学療法学Supplement

    理学療法学Supplement 2012 (0), 48101613-48101613, 2013

    公益社団法人 日本理学療法士協会

詳細情報 詳細情報について

  • CRID
    1390282680551971968
  • NII論文ID
    130004585807
  • DOI
    10.14900/cjpt.2012.0.48101613.0
  • 本文言語コード
    ja
  • データソース種別
    • JaLC
    • CiNii Articles
  • 抄録ライセンスフラグ
    使用不可

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