股関節脱臼予防目的でボツリヌス治療を行ったGMFCSレベルVの脳性麻痺児の変化:4症例報告

DOI
  • 石原 美智子
    愛知県心身障害者コロニ-中央病院総合診療部
  • 伊藤 弘紀
    愛知県心身障害者コロニ-中央病院総合診療部
  • 藪中 良彦
    大阪保健医療大学保健医療学部リハビリテーション学科

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抄録

【はじめに、目的】 脳性麻痺児(以下、CP児)に対するA型ボツリヌス毒素製剤(以下、BTX)治療の目的や効果を粗大運動能力分類システム(以下、GMFCS)レベル別にまとめた先行研究(石原、2011)において、GMFCSレベルVは、主に股関節脱臼の予防または反り返りの軽減が目的であることを報告した。現在のところ、GMFCSレベルVのCP児へのBTX治療の股関節脱臼に対する効果に関する研究は少なく、姿勢運動機能への効果に関する研究は見当たらない。そのため、今回の研究の目的は、GMFCSレベルVのCP児に対し、股関節脱臼の予防を目的に繰り返し行なったBTX治療の股関節脱臼と姿勢運動機能への効果を検証することである。【方法】対象 平成21年1月~平成24年2月に、股関節脱臼の予防を目的に両側股関節内転筋群及び内側ハムストリングにBTX施注したGMFCSレベルVの痙直型四肢麻痺を呈するCP児4名(男児1名、女児3名)。上記2筋以外に大胸筋等、平均3.7ヶ所にも施注が行なわれた。施注回数は3回が1名、4回が3名、施注を繰り返した期間は平均18.2±3.5ヶ月(9~26ヶ月)、施注時の年齢は平均5.0歳±8.8ヶ月(4歳1ヶ月~6歳9ヶ月)であった。理学療法は、施注2週後からの1週間は毎日実施し、その後は2週間に1回の頻度で、姿勢運動機能の向上を目的とした運動療法を実施した。評価方法 股関節脱臼の評価は、BTX施注前後の単純X線写真からMigration Percentage(以下、MP)を測定した。治療効果の評価は、BTX施注前及び施注2週後、1ヶ月後、2ヶ月後、3ヶ月後に実施した。筋緊張の評価はModified Tardieu Scaleを用い、姿勢運動機能は、養育者との共同作業で作成したGoal Attainment Scale(以下、GAS)の項目の中で4名に共通であった臥位、座位、歩行(介助、歩行器)について、BTX前と3ヶ月後を比較し結果をまとめた。【倫理的配慮】 治療と評価は臨床業務の中で行い、今回の学会発表のための臨床データの使用に関しては養育者に文書・口頭にて説明を行い同意を得た。【結果】 BTX治療(繰り返し施注)の前後で、MPは改善(10%以上)が2股関節、維持が5股関節で、悪化(10%以上)が1股関節であった。BTX前後のMPの平均値はそれぞれ56.6%と50.0%でBTX繰り返し施注によって改善の傾向が見られたが、対応のあるt検定で有意差はなかった(p=0.072)。筋弛緩作用は全回で出現し、持続期間は平均2.2±0.5ヶ月であった。姿勢運動機能については、各BTX施注前後の評価で改善が見られたのは、臥位(6/15回)、座位(7/15回)、歩行(5/13回)で、全43回のGASの評価中、改善18回(41.9%)、維持23回(53.5%)、悪化2回(4.7%)であった。機能向上の例は、臥位では「両膝が接しなくなり、パンツの着脱が容易になった。」、座位では「胡座保持が10秒から1分に向上した。」、歩行器歩行では「移動できる距離が増えた。」などがあった。【考察】 美延(2010)によると臼蓋骨頭被覆度の減少は、3歳を過ぎて急激に進行する傾向があるとされており、当院で行った股関節亜脱臼の調査でも、MP50%以上の診断を受けた年齢はGMFCSレベルVは平均5.2±2.16歳であり、本研究の対象である5歳前後は股関節亜脱臼が進行しやすい時期であると考える。今回は8股関節中7股関節でMPの維持・改善が見られ、BTX施注による筋弛緩作用が股関節亜脱臼の進行を遅らせることが示唆された。これは共田の報告(2010)と一致する。 姿勢運動機能の向上は、CP児の運動発達曲線の研究(Rosenbaum,2002)から、GMFCSレベルVでは極めて難しいとされているが、今回、GASを用いて姿勢運動機能の評価を行ったところ、BTX施注による筋弛緩作用の平均持続期間2.2±0.5ヶ月を過ぎた3ヶ月後の評価で41.9%に向上が見られ、BTX治療によって重度のCP児であっても姿勢運動機能を向上できる可能性があることが示唆された。 今後の課題は、ICFの枠組みから考えて、GASから得られた姿勢運動機能の向上が患者と家族にとって有意義なものであったかを検証することである。【理学療法研究としての意義】 最重度の障害があるGMFCSレベルVのCP児であっても、BTX治療により股関節亜脱臼の進行を防ぎ、姿勢運動機能を向上できる可能性が示唆されたことは、理学療法研究において意義深い結果であったと考える。

収録刊行物

  • 理学療法学Supplement

    理学療法学Supplement 2012 (0), 48101657-48101657, 2013

    公益社団法人 日本理学療法士協会

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