片脚着地時における足底板使用の膝関節動態への影響について

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  • -足部アライメントと足底板の種類による効果の違い-

抄録

【はじめに,目的】膝前十字靭帯損傷(ACL損傷)は,スポーツ中でのジャンプ着地や減速動作,方向転換動作などにおいて受傷頻度が高いとされており,膝外反に加えて下腿の回旋が生じることによって受傷すると報告されている.膝外反に関連する運動要素の1つとして足部回内・外反があり,静的な足部回内アライメントがACL損傷受傷のリスク因子であるとする報告も散見される.足部回内・外反の治療選択の一つとして足底板療法が広く用いられているが,足底板使用により第5中足骨頭への負荷が増加するという報告もなされており,その適応は慎重に判断する必要がある.足部の静的なアライメントと足底板の種類による上位関節への効果の違いとの関連性は足底板処方において重要であるが,まだ未解明な部分が多い.そこで,本研究の目的は足部の静的なアライメントと足底板の種類の違いによる膝関節に与える効果の違いを調べることとした.【方法】神経学的・整形外科的現病歴,既往歴の無い健常女性13名(平均年齢23.4±2.6歳)を対象とした.対象をNavicular Drop(ND)の値からNDL群(NDが7mm以上:n=7),NDS群(NDが7mm以下:n=6)の2群に分類した.動作課題は,30cm台上両脚立位から前方への片脚着地とした.動作は,三次元動作解析装置EvaRT4.3.57(Motion Analysis社製),カメラ6台(240Hz),床反力計1枚(Kistler社製 1200Hz)を使用し,被験者には体表に39個の反射マーカーを貼付し運動を記録した.また,事前に対象の足型を非荷重位(座位)にて採型し,対象の足底に合った内側アーチサポートを作成,加えて対象の足長に合わせた5°の内側ウェッジを用意し,足底板無し(bare),内側アーチサポート(arch),内側ウェッジ(wedge),内側アーチサポート+内側ウェッジ(both)の4条件下にて,片脚着地動作を行った.なお,足底板はテープで足底に固定した.測定前に運動の十分な説明と練習を行い,各条件下4試行の運動を記録した.床反力が10Nを超えた点を初期接地(Initial Contact:IC)とし,IC前150msからIC後150msの間における膝関節の角度/モーメントをSIMM4.2.1(Musculo Graphics社製)を用いて算出した.統計学的検定は,各群ともに25msごとに4条件間の角度・モーメントをrepeated-measure ANOVAを用いて比較し,post hocにはLSDを使用した.統計学的有意水準はp<0.05とした.【倫理的配慮,説明と同意】本研究はヘルシンキ宣言に則り,対象には実験前に口頭と書面で本研究の目的,実験手順,考えうる危険性等を十分に説明し,内容について十分に理解を得た.その上で参加に同意した者は同意書に署名し実験に参加した.【結果】床反力,膝屈曲/伸展角度・モーメントはどちらの群も4条件間で有意差はなかった.膝内反/外反角度において,NDL群では100,125msの時点でbothが他の3条件に比して有意に内反角度が高値であったが,NDS群ではIC,25msの時点でboth,archがbareに比して有意に内反角度が少なかった.また膝内旋/外旋角度において,NDL群では125,150msの時点で,both,archがbareに比して有意に内旋角度が高値であったが,NDS群では有意差を認めなかった.膝内反/外反モーメントにおいては,NDL群では75~150msの時点でbothが他の3条件に比して有意に内反モーメントが高値であったが,NDS群では75~125msの時点でbothがbareに比して有意に内反モーメントが高値であった.【考察】75ms以降において,NDL群ではboth条件が他の3条件に比して内反角度・モーメントが高値であり,NDS群では角度では有意差は無くモーメントではbothと他の足底板条件との差が無くなったことから,NDが大きい者はarch,wedge単独ではなく両方を合わせなければ足底板による制動効果を発揮することができないかもしれなく,NDの小さい者では,単独で十分に効果が出る可能性が示唆された.しかし,NDの小さい者では裸足に比して足底板を入れることでより高い内反モーメントを生じており,膝関節へ加わる負荷が増大していると考えられるため,予防の観点からの足底板の使用は慎重に判断する必要性があるかもしれない.今後は足底板使用による股関節・体幹の運動への効果や,筋活動の変化についての研究が必要だと考えられる.【理学療法学研究学的意義】ACL損傷予防においては,臨床的に神経筋コントロールの改善を中心に行われているが,足底板療法もまた選択される一つの治療戦略である.足部のアライメントと足底板の種類による効果の違いとの関連を明らかにすることで,より効果的な足底板処方を行うことが出来るようになる可能性が考えられる.

収録刊行物

  • 理学療法学Supplement

    理学療法学Supplement 2012 (0), 48101687-48101687, 2013

    公益社団法人 日本理学療法士協会

詳細情報 詳細情報について

  • CRID
    1390001205575405824
  • NII論文ID
    130004585863
  • DOI
    10.14900/cjpt.2012.0.48101687.0
  • 本文言語コード
    ja
  • データソース種別
    • JaLC
    • CiNii Articles
  • 抄録ライセンスフラグ
    使用不可

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