肩関節評価における座位肘押テストに関わる身体的要因の検証

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抄録

【はじめに、目的】肩関節の障害は,回旋筋腱板機能不全や体幹・下肢からの連結不全によってもたらされることが多く,肩関節機能のみならず肩周囲筋の安定性,さらには動作時における体幹筋の安定性を複合して評価する必要がある。肩関節疾患に対する機能評価として,原テストが臨床的によく用いられている。しかしながら本テストは肩関節疾患に対する総合的評価であり,各評価項目が具体的に,どの身体機能と関係しているか検証している報告は少ない。本研究の目的は,原テストの一項目である座位での肘押テスト(Elbow Push Test: 以下EPT)について,筋力の視点からEPTに関わる身体機能を検討することである。【方法】対象は健常高校生17名(男子10名,女子7名,平均年齢16.2±1.1歳,身長166.2±7.1cm,体重59.4±9.7kg)であった。対象者全員に対し,EPTにおける筋力,前鋸筋筋力,体幹回旋筋力,体幹屈曲・伸展筋力を測定した。EPTの筋力測定は,端座位,両下肢が床についた状態で,腕を胸の前で組んだ状態(肩関節90°屈曲,肘関節90°屈曲,前腕回内外中間位で肩関節90°内旋位の状態を保持)のまま,肘部に対して体幹と垂直に抵抗をかけ,肘部を突き出す等尺性筋出力値を計測した。前鋸筋の筋力はDanielらの徒手筋力測定法に基づき,端座位にて等尺性筋出力を計測した。体幹回旋筋力は,股・膝関節屈曲90°,骨盤正中位での端坐位,両下肢が床についた状態で,大腿部をベルトで固定,両上肢は胸の前で組んだ姿勢のまま,大結節部分に抵抗をかけて等尺性筋出力値を計測した。以上の筋力測定はハンドヘルドダイナモメーター(μ-tas,ANIMA社製)を使用し,左右ともに3回ずつ測定した平均値を測定値とした。なお信頼性の評価として,全ての測定においてICCを計測し,高い検者内信頼性が得ている。体幹屈曲・伸展筋力は,等速性筋力測定器 (BIODEX SYSTEM 3, 酒井医療社製)を使用し,角速度60°の等速性筋力を計測した (資料提供: (財)群馬県スポーツ振興事業団)。体幹屈曲・伸展の各筋力に加え,屈伸比を測定値として抽出した。統計学的分析では,EPTの筋力と前鋸筋筋力,体幹回旋筋力,体幹屈曲・伸展筋力および屈伸比における各測定値間のPearsonの相関係数を算出し,その関連性を検討した。なお各分析における有意水準は5%とし,統計ソフトはSPSS 18.0J for Windowsを使用した。【倫理的配慮、説明と同意】対象者は事前調査で腰痛・上肢痛を有していないことを確認し,計測時は医師,理学療法士が傍にいる状態で,緊急時に対応できる体制で実施した。なお全ての対象者に対し,研究の意義や内容に関して十分に説明し,紙面上で同意を得た上で測定に取り掛かっている。【結果】左右EPT筋力と前鋸筋筋力(左 0.645, p=0.005 / 右 0.551,p=0.022 / 左右平均 0.697, p=0.002),および体幹回旋筋力(左 0.667, p=0.003 / 右 0.684,p=0.002 / 左右平均0.730, p=0.001)との間に有意な相関を認めた。体幹屈曲・伸展筋力および屈伸比との間には相関を認めなかった。【考察】EPTにおける筋力発揮には,前鋸筋および体幹回旋筋力が必要であることが明らかになった。EPTの運動特性として,肘部で上肢を突き出すための肩甲骨の固定と,突き出す動作に伴う体幹回旋が必要であることから,それに関連する結果と考えられた。今回の結果からEPTは肩甲骨固定と体幹回旋の絶対筋力の評価として有用である可能性が示唆された。しかし今回はEPTにおいて筋力発揮が可能な対象者における検討であり,肩関節疾患に対する評価の有用性を検討する上では,筋力発揮が困難な対象者において,筋出力のタイミングやその他の要因も含めて検討する必要がある。また原テストは複数のテストによる総合的評価指標であるため,その他の評価項目においても関係する身体的要因を明らかにしていく事が今後の課題である。【理学療法学研究としての意義】今回はEPTの筋力のみの検討であったが,最終目標である原テストの適応を明確にするための一助として有意義であったと考えられる。肩関節の理学療法における臨床評価として幅広く利用されている本テストの科学的根拠や意義が明確となり,今後の臨床への適応,研究における評価として発展していくことが期待される。

収録刊行物

  • 理学療法学Supplement

    理学療法学Supplement 2012 (0), 48101755-48101755, 2013

    公益社団法人 日本理学療法士協会

詳細情報 詳細情報について

  • CRID
    1390282680552245120
  • NII論文ID
    130004585913
  • DOI
    10.14900/cjpt.2012.0.48101755.0
  • 本文言語コード
    ja
  • データソース種別
    • JaLC
    • CiNii Articles
  • 抄録ライセンスフラグ
    使用不可

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