超音波療法が筋組織内循環動態と深部温度に与える影響

DOI
  • 森下 勝行
    郡山健康科学専門学校応用理学療法学科 信州大学大学院総合工学系研究科
  • 烏野 大
    郡山健康科学専門学校応用理学療法学科
  • 横井 悠加
    郡山健康科学専門学校応用理学療法学科 信州大学大学院総合工学系研究科
  • 荻原 久佳
    郡山健康科学専門学校応用理学療法学科 信州大学大学院総合工学系研究科
  • 諸角 一記
    郡山健康科学専門学校応用理学療法学科
  • 藤原 孝之
    郡山健康科学専門学校応用理学療法学科 信州大学大学院総合工学系研究科
  • 藤本 哲也
    信州大学大学院総合工学系研究科
  • 阿部 康次
    信州大学大学院総合工学系研究科

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抄録

【はじめに,目的】超音波療法(US)とは,超音波帯域の振動エネルギーを医療に応用した物理療法である.USは,周波数や強度および照射時間率などの設定により,様々な生理学的効果が得られる.特に,連続性USは疼痛や拘縮の改善のため,臨床で活用される頻度の高い治療である.その生理学的効果は,組織温の上昇,局所血流や組織伸張性の増加などがあり,疼痛・拘縮治療に活用されている.元来,疼痛や拘縮の改善には罹患部位の酸素供給を含めた血液循環動態の促進が重要である.しかし,これらに起因するUSと筋組織内酸素代謝および血液循環動態の関係を血中ヘモグロビン濃度の変化から検討した報告は少ない.我々は,これまでにUSと筋組織内循環動態および皮膚表面温度との関連性について報告した.しかし,皮膚表面温度からは筋実質の深部温度の変化は不明であり,筋組織内の循環動態と深部温度の関連性については検討課題であった.本研究の目的は,USが筋組織内循環動態と深部温度に与える影響について明らかにすることである.【方法】対象は,健常成人男性10名(年齢20-39歳,身長170.4±4.4cm,体重65.6±10.2kg,BMI22.5±2.9)とし,同一被験者に対し3つの介入実験を行った.介入方法は,(1)US(超音波照射)群,(2)sham(超音波照射なし)群,(3)control(安静)群とし比較検討した.US群の照射条件は,周波数3MHz,強度1W/cm2,照射時間率100%,照射時間10分間,照射範囲は超音波導子の2倍,照射方法はストローク法とした.超音波照射には超音波治療器(EU-940,伊藤超短波社製)を用いた.sham群は,超音波の照射は行なわず,他はUS群の照射条件同様の方法で施行した.control群は,安静のみとし各項目の計測を行った.介入および計測部位は僧帽筋上部線維とした.計測項目には,酸素化ヘモグロビン(Oxy-Hb)と脱酸素化ヘモグロビン(Deoxy-Hb),総ヘモグロビン(Total-Hb),および深部温度(DT)とした.計測機器は,近赤外線分光器(NIRO-200,浜松ホトニクス社製)および深部温度計(コアテンプCM-210, TERUMO社製)を使用した.実験プロトコルは,介入前5分間(安静),介入(各条件)10分間,介入後60分間(安静)とした.計測対象は,介入前5分間と介入後60分間とし,5分間隔に分割して解析を行った.統計解析は,介入方法と計測時間を2要因とする反復測定による二元配置分散分析を行った後に多重比較(Tukey-HSD)を実施し,いずれも有意水準は5%未満とした.【倫理的配慮,説明と同意】本研究は,こおりやま東都学園研究倫理委員会の承認(承認番号:倫理委R0907)を得て行われた研究である.全ての対象者には事前に本研究の目的と内容を口頭および書面で説明し,書面にて研究協力の同意を得た.【結果】反復測定による二元配置分散分析の結果,Deoxy-Hb以外の各計測項目において交互作用(p<0.01)を認め,US群,sham群,control群の3群間で変化のパターンに有意な違いがあった.多重比較の結果では,介入直後から60分後まで,US群がsham群とcontrol群に比べOxy-HbとTotal-Hbが有意に高値を示した(p<0.05).DTは,介入後20分までUS群がsham群とcontrol群に比べ有意に上昇したが(p<0.05),それ以降においては3群間に有意差は認められなかった.【考察】本研究では,超音波療法が筋組織内循環動態と深部温度に与える影響について検討した.本結果より,超音波療法は筋組織内の酸素供給および末梢循環動態を促進する効果があることが示唆された.さらに,超音波療法の介入後60分間における持続効果も明らかとなった.これらの要因としては,超音波の温熱効果が影響したものと考えられる.しかしながら,深部温度の経時的変化から超音波の効果は20分程度認めたが,筋組織内の末梢循環は介入後60分間において増加していた.つまり温熱効果だけではなく,超音波の機械的振動刺激が筋交感神経などの自律神経系に対して直接的に影響し,筋組織内循環動態を賦活した可能性が示唆された.超音波による交感神経活動の抑制は,骨格筋内の血管平滑筋を弛緩させ,血管の断面積を拡大させる(三宅,2005).また,筋硬度の変化に伴う筋内圧の低下(森下, 2010)が血管への圧迫を軽減させる.これらの血管収縮性因子の活性低下と血管拡張性因子の活性亢進が起因し,筋組織内の毛細血管拡張に作用したものと考えられる.これらにより,Oxy-Hbを多く含有する新鮮動脈血の流入量が増加し,筋組織内の酸素供給および循環動態を促進させたものと考えられた.【理学療法学研究としての意義】超音波療法は筋組織内循環動態および組織の酸素化を持続的に促進する有効な治療法であることが示唆された.本結果は,臨床において超音波療法と併用する徒手療法や運動療法の効果的な介入指標となり,疼痛・拘縮治療に対する臨床意義は高いものと考える.

収録刊行物

  • 理学療法学Supplement

    理学療法学Supplement 2012 (0), 48101776-48101776, 2013

    公益社団法人 日本理学療法士協会

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