転倒受傷患者の自宅復帰の要因について

DOI
  • 嶋村 剛史
    社会保険大牟田天領病院リハビリテーション科
  • 今村 健二
    社会保険大牟田天領病院リハビリテーション科

抄録

【はじめに、目的】近年では長期療養型病院への入院の主因は転倒であり、高齢者が社会復帰できない一つの要因と考えられている。当院回復期病棟においても全体の約27%が転倒起因による受傷入院であり、運動器疾患の約64%を占めている。そこで今回、転倒で受傷した患者の自宅復帰に関連する因子を明らかにすることを目的とした。【方法】対象は2010年4月から2012年3月の24カ月間に当院入院し、回復期病棟に転棟されリハビリテーション(以下リハビリとする)を受けた受傷機転が転倒の患者84名(内訳は圧迫骨折17名、大腿骨頚部骨折36名、大腿骨転子部骨折25名、腸骨骨折1名、寛骨臼骨折1名、膝蓋骨骨折1名、恥骨骨折1名、脛骨近位端骨折1名、脛骨後十字靱帯付着部裂離骨折1名)を対象とした。適格基準として全対象者は入院前の状態として居宅で自立歩行可能であったこと、重篤な合併症がないこととした。内容はカルテより後方視的調査を実施、84名を自宅退院群64名、転院もしくは施設入所群(以下転院群とする)20名の2群に分類し、性別、年齢(81.2±9.6歳:86.7±6.7歳)、在院日数、入院前Functional Independence Measure(以下FIMとする)、リハビリ開始時FIM 、退院時FIM、FIM改善度(退院時FIM-リハビリ開始時FIM)、一日あたりのFIM改善度(FIM改善度÷在院日数)、家族との同居の有無、退院時における歩行自立の有無、退院時における排泄動作の自立の有無について比較した。自宅復帰の要因を抽出するため、転帰(自宅退院または転院)を従属変数、その他全ての変数を独立変数として、多重ロジスティック回帰分析を適用した。結果で得られた項目に対して、cutoff、特異度、感度など統計指標を求めた。統計学的解析はRを使用した。【倫理的配慮、説明と同意】本研究の項目は通常診療で必要な情報であり、観察研究ゆえに実験的介入はないが、ヘルシンキ宣言に基づいて調査を行った。【結果】自宅復帰の可否に影響する項目はFIM改善度、一日あたりのFIM改善度、退院時FIM、同居の有無、退院時における排泄動作の自立の有無であった。cutoff、特異度、感度の値は順にFIM改善度41、85%、81.2%、一日あたりのFIM改善度0.5、90%、82.8%、退院時FIM107、90%、85.9%、同居の有無1、28%、82.8%、退院時における排泄動作の自立の有無1、85%、89.1%であった。これらのロジスティック回帰式の誤判別率は0.048で、誤判別した患者4名についてみてみると、自宅退院可能と判別されて転院の方が2名、転院と判別されて自宅退院された方が2名であった。【考察】今回、84名の転倒受傷患者の転帰を追跡した。もともと居宅で自立生活を送っていた方が、転倒することで23.8%が自宅退院できない状況であった。転院となった患者は大腿骨頚部骨折患者12名(人工骨頭置換術10名、骨接合術1名、保存1名)、大腿骨転子部骨折患者6名(骨接合5名)、圧迫骨折患者2名であった。大腿骨頚部骨折を転倒受傷した患者の転院は約38.7%(12/31)、大腿骨転子部骨折を転倒受傷した患者の転院は19.4%(6/31)であり、圧迫骨折を転倒受傷した患者の転院は5.4%(2/37)であった。その他の骨折等は自宅退院が可能であった。その中でも大腿骨頚部骨折に対して人工骨頭置換術を施行された患者は38.5%(10/26)自宅退院できない状況であった。自宅退院可能と判別されて転院と誤判別された2名のうち1名は自宅復帰の可否に影響する項目のcutoff 値を上回っていたが、社会的理由で転院となっていた。もう1名はFIM等cutoffラインで、排泄動作自立であったが同居人が無く転院されていた。転院と判別されて自宅退院と誤判別された2名のうち、1名はFIM等低く、介助を要するが家族の支援にて自宅退院されていた。もう1名はFIM等cutoffラインで同居人無しであったが、自宅復帰への意欲が高く、退院前訪問、動作確認、住宅改修等行い自宅退院されていた。同居の有無は大きな影響を与える項目として特定したが、生活指導を含めた居住環境の整備など外的因子を強化することで、自立歩行に向けての運動機能向上など内的因子の改善が転帰に対してさらに大きな影響を与えるのではないかと考える。【理学療法学研究としての意義】様々な因子を考慮した理学療法の展開を進めると同時に、今後も引き続き調査が必要であると考える。加えて、高齢者が転倒受傷することで、住み慣れた自宅へ復帰できない可能性がある現状を直視し、高齢者の転倒・骨折予防に取り組むことが理学療法士の課題であると考える。その現状を患者、家族、スタッフに提示できる意味でこういった手続きが必要である。

収録刊行物

  • 理学療法学Supplement

    理学療法学Supplement 2012 (0), 48101805-48101805, 2013

    公益社団法人 日本理学療法士協会

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詳細情報 詳細情報について

  • CRID
    1390282680552193536
  • NII論文ID
    130004585946
  • DOI
    10.14900/cjpt.2012.0.48101805.0
  • 本文言語コード
    ja
  • データソース種別
    • JaLC
    • CiNii Articles
  • 抄録ライセンスフラグ
    使用不可

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