身体イメージの形成を目的とした認知課題により端座位が可能となった壮年期の成人脳性麻痺2例

DOI
  • 山下 浩史
    スカイ整形外科クリニックリハビリテーション科
  • 西上 智彦
    甲南女子大学看護リハビリテーション学部理学療法学科
  • 浅野 大喜
    日本バプテスト病院リハビリテーション科

抄録

【はじめに、目的】 成人脳性麻痺の日常生活動作は,およそ75%の症例が自立している一方で,全介助を必要とする一群が存在することが報告されている.これまでの成人脳性麻痺への介入研究は,立位や歩行が自立している軽症例を対象に筋力トレーニングやトレッドミルトレーニングを行ったものが多い.しかし,端座位保持や歩行が不可能な重症例に対する報告として,関節可動域運動や姿勢保持装置を用いたポジショニングアプローチがあるものの,機能障害を改善させることによって端座位の獲得を試みた報告はない.今回,10年以上独立した端座位が困難であった重度成人脳性麻痺2例に対して,視覚情報と体性感覚情報の統合によって形成されると言われる身体イメージの修正を目的とした認知課題が奏効し,端座位が可能となった治療経過を報告する.【方法】 対象は粗大運動能力分類システム(GMFCS)レベルVの脳性麻痺(四肢麻痺)の50代女性2名.症例1は痙直型とアテトーゼ型の混合型で,10代前半まで数メートルの独歩が可能であったが,その後は車椅子による移動となり,50代で頸椎症を発症し,その翌年から理学療法を開始した.症例2は痙直型で,小学校就学時に独歩が可能となり,以後40代まで独歩の生活を続けていた.40代後半で頸椎固定術を施行し,50代で理学療法を開始した.両症例ともChailey姿勢能力発達レベルは背臥位,椅子座位いずれも最も低いとされるレベル1で,Barthel Indexは0点であった.発語はやや不明瞭であるが,意思疎通は可能であった.背臥位姿勢は左右非対称で,骨盤後傾位,股関節屈曲・内転・内旋位,膝関節屈曲位であった.筋緊張の亢進を両側の傍脊柱筋,腸腰筋,股関節内転筋群・内旋筋群,ハムストリングスに認めた.端座位は典型的なかがみ肢位で,背もたれがないと端座位を保持することが不可能で,背もたれ使用下でも前方へ転倒する危険性があった.足底は床面接地を維持することが困難であった.車椅子座位では仙骨座りとなり,体幹ベルトを使用していた.2例とも背臥位及び座位姿勢の非対称性に対する気づきはなく,体幹背面や殿部などの支持面の圧覚識別困難や上下肢の関節の運動覚の判別困難があり,体幹・上下肢の身体イメージに問題があることが推察された.これに対し圧覚や運動覚の識別を行い,それを他者身体と比較・照合することで身体イメージの形成や修正が可能であると考えた.治療はまず背臥位で,肩甲骨・骨盤とベッドの接触に関する圧覚の認知課題と上下肢の各関節の運動方向の認知課題を行った.その後,背臥位の左右対称姿勢が得られた時点で端座位の治療に移行し,治療者の骨盤前後傾や股関節外転運動の観察と自己身体の運動の比較照合課題を行った.評価はChailey姿勢能力発達レベルとBarthel Indexを用いて理学療法開始時と1年後の計2回行い,治療頻度は週1回の外来理学療法で,1回の治療時間は60分とした.【倫理的配慮、説明と同意】 本研究にあたり対象者に口頭にて説明を行い,同意を得た.【結果】 介入から1年で両症例共にChailey姿勢能力発達レベルは筋緊張の制御に伴い背臥位・端座位いずれもレベル1からレベル2に向上した.各構成要素群に関して,レベル1から向上した項目は両症例において共通であった.背臥位は「対称性」,「骨盤帯の肢位」,「脊柱の形状」,「下顎の肢位」,「上肢および手の肢位」,「下肢の肢位」で,椅子座位は「座位設定時の能力」,「骨盤帯の肢位」,「体幹の肢位および運動」,「股関節の肢位」,「活動」であった.Barthel Indexは変化を認めなかったが,日常生活において短時間ではあるが背もたれを使用せず座位保持が可能となり,前方へ倒れこむことはなくなった.下肢においては股関節の肢位が内外転中間位で保持できるようになったことで,足底の床面接地を維持することが可能になった.【考察】 1年間の治療介入の効果として,Chailey姿勢能力発達レベルを用いて姿勢制御能力の向上が確認できた.今回の症例は長期にわたる運動が制限された日常生活を送る中で誤った身体認識を獲得した可能性が高く,今回の治療を通じて外部環境に適応できるものへ改変されたと考える.また本症例のはさみ肢位やかがみ肢位は,二次障害としての不可逆的な関節拘縮ではなく一次障害としての痙性によるものであったと考えられる.【理学療法学研究としての意義】 加齢によって運動機能が著しく低下したGMFCSレベルVの重度成人脳性麻痺症例であっても自己身体の認識を高めることで座位姿勢制御能力が改善する可能性を示唆した点.

収録刊行物

  • 理学療法学Supplement

    理学療法学Supplement 2012 (0), 48101859-48101859, 2013

    公益社団法人 日本理学療法士協会

詳細情報 詳細情報について

  • CRID
    1390282680552429184
  • NII論文ID
    130004585985
  • DOI
    10.14900/cjpt.2012.0.48101859.0
  • 本文言語コード
    ja
  • データソース種別
    • JaLC
    • CiNii Articles
  • 抄録ライセンスフラグ
    使用不可

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