肺気量位および呼気努力が咳嗽時の呼気流量及び流量加速度に及ぼす影響

DOI
  • 井上 裕水
    医療法人 平成記念病院 リハビリテーション課 畿央大学大学院 健康科学研究科
  • 赤壁 知哉
    畿央大学大学院 健康科学研究科 市立奈良病院 リハビリテーション部
  • 増田 崇
    奈良県立奈良病院 リハビリテーション科
  • 田平 一行
    畿央大学大学院 健康科学研究科

抄録

【はじめに、目的】咳嗽は気道内の異物や分泌物を除去するために必要な生体防御反応である。なかでも随意咳嗽は吸気相から始まり、圧縮相、呼気相から構成される。臨床では咳嗽機能の指標として咳嗽時呼気流量(Cough peak flow: CPF)が用いられており160L/min以下になると日常的に気道分泌物の除去が困難になると報告される。またCPFは神経筋疾患、嚥下障害患者及び腹部外科術後患者において低下するとの報告がある。近年、CPFに加えて気道と分泌物の間に生じる剪断力に関係するとされる咳嗽時流量加速度(Cough Volume acceleration :CVA)が注目されている。CPF、CVAは臨床では有効な排痰を行うために重要であり脳卒中患者やパーキンソン病患者において誤嚥とのスクリーニングの指標としての報告がいくつかなされているが、その生理学的メカニズムについては十分に検討されていない。そこで今回、肺気量位および呼気努力が咳そう時流量および流量加速度に及ぼす影響について検討した。【方法】被験者は、健常人男性13 名で年齢25.1 ± 2.9 歳、身長171.1 ± 3.8cm、体重62.7 ± 5.3kgであった。被験者に座位をとらせ、努力有り、 無しの咳嗽を最大呼気位からの吸気量(深吸気, 3L, 2L, 1L)を変化させて3 回実施した。随意咳嗽のデータはフローヘッド(MLT300L: ADInstruments)からフロートランスデューサー(ML311 Spirometer Pod)へ取り込みさらにA/D コンバータ(Power Lab16/35, ModelPL3516: ADInstruments)を介してパーソナルコンピュータに取り込んだ。得られた咳嗽時流量波形から、CPFを求め、CPFを呼気開始からCPFに達する時間で除してCVAを算出した。統計解析はCPFとCVAについて、呼気努力あり、努力なしおよび努力による増加率を各吸気量で反復測定分散分析を用いて比較した。多重比較にはボンフェローニ法を用い、有意水準はp<0.05 とした。【倫理的配慮、説明と同意】被験者には事前に本研究の目的を説明し同意を得てから行った。また事前に学内の研究倫理委員会の承認を得た。【結果】吸気量による比較:努力の有無にかかわらず吸気量が大きいほどCPFは高い傾向を示したが、CVAには一定の傾向を認めなかった。呼気努力の有無による比較:CPFおよびCVAともに呼気努力によりいずれも吸気量で増加し、努力による増加率は、CPFで3.9 〜4.1 倍、CVAで5.1 〜7 倍であった。また、努力による増加率には、吸気量間に有意差を認めなった。【考察】通常の咳嗽(努力あり)のCPFは吸気量が増えるにつれて高値を示した。これは先行研究でも吸気量はCPFの決定要素となると報告されており同様の結果であった。生理学的には、低肺気量においては等圧点が末梢に移動するため気道抵抗が減少するが、同時に静的肺・胸郭圧量曲線より肺弾性圧が低下するためCPF値が低値を示したことが考えられる。一方CVAでは吸気量の変化によって差はほとんどみられなかった。CVAは流量が最大になるまでの時間の影響が大きく、これは声帯機能を反映すると考えられるため、吸気量の影響が小さかったものと推察された。呼気努力のない咳嗽では等圧点が存在しないため、CPF、CVAの吸気量による変化は、肺弾性圧の変化を反映していると考えられた。また呼気努力による増加率はCPFよりCVAが高く、吸気量による変化を認めなかった事から、喀痰に働く剪断力を反映するとするCVAは、CPFよりも努力による効果(胸腔内圧の上昇などを反映しやすいものと考えられた。【理学療法学研究としての意義】CPFにおいては臨床においてアウトカムが多数報告されている。CVAにおいては臨床において誤嚥との関連が報告されているが、生理学的なメカニズムはほとんど報告されていない。今回はCVAに関わる要因を検討することにより咳嗽に関するより詳細な評価や治療効果に反映できるのではないかと考える。

収録刊行物

  • 理学療法学Supplement

    理学療法学Supplement 2012 (0), 48101908-48101908, 2013

    公益社団法人 日本理学療法士協会

詳細情報 詳細情報について

  • CRID
    1390282680552484480
  • NII論文ID
    130004586017
  • DOI
    10.14900/cjpt.2012.0.48101908.0
  • 本文言語コード
    ja
  • データソース種別
    • JaLC
    • CiNii Articles
  • 抄録ライセンスフラグ
    使用不可

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