尾部懸垂モデルラットに対する懸垂中断時間が、骨強度、骨密度に与える影響

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抄録

【はじめに、目的】高齢化の進行とともに日本では、高齢者の転倒による骨折が原因の寝たきりが社会問題となっている。高齢になった際の骨折を防ぐため、若年世代から骨強度を強く維持することも重要である。骨強度を強くする方法に運動が挙げられるが、日本では運動習慣を有している者は少ない。そこで本研究では、基本的日常生活動作である、立位・自由歩行が骨強度、骨密度に及ぼす影響について検討することとする。【方法】対象は、6 週齢のWistar系雄ラット14 匹とし、尾部懸垂を行う群11 匹、尾部懸垂を行わない群(control群)3 匹に分類した。尾部懸垂を行う11 匹のうち、後肢懸垂群(TS群)を3 匹、懸垂中に1 日3 時間、6 時間の懸垂中断時間を加える群(3h-WB群、6h-WB群)をそれぞれ4 匹に分類した。control群は自由飼育させた。介入期間は2 週間とし、介入終了後それらの両大腿骨・両下腿骨を摘出した。左大腿骨は摘出後70%エタノールに浸積・密封・冷蔵保存した。その後、万能試験機(SHIMADZU, AUTOGRAPH)を用いて3 点曲げ試験を行った。3 点曲げ試験より、大腿骨破断時の最大応力を求めた。両下腿骨は摘出後PFAにて固定し、マイクロフォーカスX線CTシステム(SHIMADZU, CT solve)を用いて撮影した。得られた画像データから一次海綿骨、二次海綿骨における骨密度を、画像解析ソフト(VISAGE, Amira5.4)を用いて計測した。本研究では、脛骨成長軟骨板遠位端より遠位20 μmの領域を一次海綿骨、成長軟骨板遠位端より1mm遠位の20 μmの領域を二次海綿骨とした。本研究で得られた数値は平均値±標準偏差で表した。各データはIBM SPSS Statistics 20 を用いてクラスカルワリス法で分析を行い、有意水準である5%未満であった場合は多重比較を行った。【倫理的配慮、説明と同意】所属大学の動物実験委員会の承認を得て実施した。【結果】(1)大腿骨破断試験:最大応力について、TS群:26.81 ± 3.61[N]、3h-WB群:28.05 ± 2.79[N]、6h-WB群:26.64 ± 2.28[N]、control群:39.39 ± 3.43[N]であった。クラスカルワリス法による分析で、有意差は認められなかった。(2)骨密度:一次海綿骨部の骨密度について、TS群:53.62 ± 3.09[%]、3-WB群:57.86 ± 2.24[%]、6h-WB群:63.89 ± 4.98[%]、control群:66.37 ± 5.05[%]であった。TS群と3h-WB群、3h-WB群と6h-WB群、6h-WB群とcontrol群の間に有意差は認めず、TS群と6h-WB群、control群の各間には有意差がみられた(P<0.05)。二次海綿骨部の骨密度について、TS群:29.68 ± 1.75[%]、3h-WB群:33.65 ± 1.71[%]、6h-WB群:35.58 ± 1.10[%]、control群:39.28 ± 1.89[%]であった。3h-WB群と6h-WB群の間には有意差はみられなかったが、他の群間では有意差がみられた(P<0.05)。【考察】今回得られた結果より、ラットでは1 日6 時間の後肢懸垂中断による骨密度低下予防効果は自由飼育によるそれと同等である可能性が認められた。本研究では、後肢懸垂を中断することをもって、立位・自由歩行に類する運動とした。一次海綿骨領域における骨密度低下予防に関する、後肢懸垂中断の効果は時間依存的に増加する傾向がみられた。一次海綿骨は、他領域と比べ骨代謝が活発な部位である。後肢懸垂を一定時間中断することで、一次海綿骨における骨代謝はcontrol群と同等レベルの活性を取り戻す可能性が考えられる。また、骨強度は骨密度と骨質の2 つの要素から説明される。本研究で用いた後肢懸垂中断という介入は、骨密度低下予防には一定の効果があることが示されたが、骨質に対してどういった影響を持つのか検討すべきである。そのため、一次海綿骨における骨代謝活性化や同部位の骨密度増加が力学的な骨強度の変化に寄与するかは未だ検討する余地があると考える。本研究ではラットを用いた実験であるため、臨床応用を考慮するには、ヒトにおいても同様の効果があるか検討していくことが必要である。【理学療法学研究としての意義】運動習慣を有さない対象者に対して、理学療法技術の一つである荷重トレーニングを一定時間行うことで、骨密度低下を予防する可能性が示された。

収録刊行物

  • 理学療法学Supplement

    理学療法学Supplement 2012 (0), 48101939-48101939, 2013

    公益社団法人 日本理学療法士協会

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