常圧低酸素環境下での運動時の呼吸循環および代謝への影響

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  • ―順化の有無によるHR,SPO2,GOR,LORの比較検討―

抄録

【目的】 我々は,常圧低酸素環境への急性暴露30分順化後における運動時の呼吸循環応答および代謝影響については,V(・)E,V(・)O2およびV(・)CO2の増加,HRの増加を認め,糖質によるエネルギー産生過程が優位になることを報告した.今回,同環境への順化による影響を検討するために環境順化ありと順化なし後に運動を行った場合での呼吸循環応答および代謝応答を比較し検討した.【方法】 対象は健常成人男性23名,平均年齢20.8(20―22 歳),平均身長170.9 ± 5.26cm,平均体重65.9 ± 10.4kg,平均体表面積1.77 ± 0.14 m2であった.被験者は前日の夕食以降絶食として翌日の午前中に測定を実施した.研究環境は,常圧下での通常酸素濃度環境(酸素濃度20.9%:以下,通常酸素)と低酸素濃度環境(酸素濃度14.5%,高度3,000m相当:以下,低酸素)とし,低酸素は,膜分離方式の高・低酸素空気発生装置(分離膜:宇部興産製UBEN2セパレーター,コンプレッサー:アネスト岩田製SLP 22C)で設定した.   実験1:通常酸素と低酸素への順化なし間の呼吸循環応答および代謝応答を比較した(10例).実験2:低酸素への順化有無による呼吸循環および代謝応答の比較で,被験者を無作為に順化あり群(13例:以下,条件1)および順化なし群(10例:以下,条件2)に分けた.尚,両条件間の施行には1週間の間隔を設けた.各実験の運動負荷装置は自転車エルゴメータ(232c コンビ社製),負荷量は通常酸素下で求めたATポインにおける70%の定量負荷,ペダル回転数は55回/分,時間は30分とし,その後30分間の安静座位を設けた.呼吸循環および代謝応答は,エアロモニター(AE-300S ミナト医科学製)を用いた.データは,運動開始時から終了まで1分間隔で測定し,5分間毎の平均値で運動stage1から6および回復stage1から6として比較検討した.脂肪酸化率(以下,LOR),糖質酸化率(以下,GOR)は以下の式により計算した.LOR(mg/分)= 1.689 ×(V(・)O2− V(・)CO2)− 1.943 × NU,GOR(mg/分)= 4.571 × V(・)CO2− 3.231× V(・)O2− 2.826 × NU .尚,得られたLOR,GORは体表面積で補正した.NU(尿中窒素排出量)は0.008g/分で一定とした.HR(拍/分),SPO2(%)も測定した.統計学的手法は,Welch’s t-testを用い,有意水準は危険率5%未満とした.【倫理的配慮、説明と同意】 対象者には,研究の主旨・内容および注意事項について説明し,同意を得たのちに実験を開始した.【結果】 実験1のHRおよびSPO2は,運動と回復のすべてのstageにおいて低酸素が通常酸素より有意に高値を示した(P<0.05).すべての運動stageにおいて,LORは低酸素より通常酸素が有意に低値であり,GORは低酸素が通常酸素より有意に高値を示した(P<0.05).一方,回復では,GOR,LOR共にすべてのstageに有意差を認めなかった.実験2のHRは,条件2が条件1より運動stage3,4で高い傾向を示し,stage5,6で有意に高値を示したが,回復では有意差を認めなかった(P<0.05).SOP2は両条件間で運動と回復のすべてのstageに有意差を認めなかったが,運動stage3以降終了時まで条件2が低値であった.LORは,すべての運動stageで条件1が条件2より有意に高値を示したが,反対に回復stage3,4,5,6では条件2が条件1より有意に高値を示した.GORは,運動および回復stageにおいて有意差を認めないが,条件1が高値を示した.LORおよびGORから総消費カロリーを算出すると条件1の方が約10%多かった.【考察】 常圧低酸素環境への暴露後の順化が呼吸循環代謝応答に与える影響について分析した.低酸素への順化なしでの定量負荷運動は,呼吸循環への負荷量を増加させ,代謝系には先行研究同様なGORの有意に増加を認めた.これは,低酸素環境による低酸素血症から有酸素系のエネルギー代謝が阻害された結果と考える.順化の有無による検討では,運動時にHRが高値を示し,SPO2が有意に低値を示した.これは,低酸素血症を改善するためのFickの法則からHRが増加したと考える.代謝では,条件1の方が条件2に比べLORは少なく,GORは多く,さらに総消費カロリーも約10%多かったことから,順化後に運動を施行することがより良いと考えられた.低酸素への順化なしの運動療法においても代謝では糖質優位となるが,呼吸循環系へはより多くの負荷かを掛けることが示唆された.したがって,呼吸循環系へのリスクがある者に対する低酸素での運動療法施行は,順化時間を設ける必要があると考えられた.【理学療法学研究としての意義】 常圧低酸素環境は,呼吸循環系および代謝への影響(特に,糖質利用促進)から,生活習慣病に対する運動施行環境としての有効性と考えられるが,低酸素環境への順化の影響を検討することで,より安全な施行環境を提示できると考える.

収録刊行物

  • 理学療法学Supplement

    理学療法学Supplement 2012 (0), 48101954-48101954, 2013

    公益社団法人 日本理学療法士協会

詳細情報 詳細情報について

  • CRID
    1390001205575651840
  • NII論文ID
    130004586055
  • DOI
    10.14900/cjpt.2012.0.48101954.0
  • 本文言語コード
    ja
  • データソース種別
    • JaLC
    • CiNii Articles
  • 抄録ライセンスフラグ
    使用不可

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