聴覚刺激による指床間距離への影響

DOI
  • 生方 瞳
    国際医療福祉大学保健医療学部理学療法学科
  • 丸山 仁司
    国際医療福祉大学保健医療学部理学療法学科

抄録

【はじめに、目的】ヒトは内耳の前庭機能、筋・関節における固有感覚、および視覚などの働きによって姿勢を維持していることが生理学的な知見から明らかにされている。先行研究では、聴覚刺激により重心動揺が認められている。また、クリック音による下腿の筋反射が報告されている。大きな音刺激は大脳運動野の興奮性を一過性に抑制するとされ、この抑制は、音の強さや長さに依存し、機械的刺激の入力は筋緊張抑制という生体反応を認めるとしている。これらのことより、音刺激により筋緊張が変化し、柔軟性に影響を及ぼす可能性は高いと考えられる。臨床ではパーキンソン病患者の歩行に対する聴覚刺激に関する研究では、音リズムの有用性が多く報告されている。しかし、これらの聴覚刺激による外部刺激が、具体的に身体運動へどのように影響しているのかを報告したものは少ない。そこで本研究では、聴覚刺激が身体へ与える影響について、検証することを目的とした。【方法】対象者は本学理学療法学科学部生17 名(男性9 名、女8 性名)、年齢21.1 ± 2.1 歳、身長166.8 ± 9.5cm、体重60.1 ± 8.9kg、BMI21.5 ± 1.9 とした。結果に影響を及ぼすと考えられる脊椎疾患や、股関節疾患、頚椎疾患、聴覚に異常のあるものは除外した。測定項目は指床間距離(以下FFD)、反応時間(以下RT)、伸展下肢挙上テスト(以下SLR)、ファンクショナルリーチテスト(以下FRT)とし、乱数表を使用して無作為に行った。なお、測定はすべて同一被験者によって実施した。FFDの測定にはStanding Trunk Flexion Meter(TAKEI製)を用い、1 分間の間をあけて2 回測定し平均値を代表値とした。RT の測定には携帯式音刺激装置を使用した。予告信号“ヨーイ”という予告信号の後に、刺激音“ピッ”に対して出来るだけ早く”パッ“と応答する課題を5 回実施した。SLRは、体幹の代償を防ぐために両上肢は胸の前で組み、骨盤帯と非検査側下肢は固定しSLR角度を測定した。ハムストリングスが伸張されることを避けるため自動運動で測定した。SLR角度解析はデジタルカメラで撮影した画像を画像解析ソフトimage J (National Institutes of Health)を使用し1°単位で解析した。FRTはメジャーを用い前方FRを2 回測定した。介入前後に同様な測定を実施した。聴覚刺激には1000Hz、70dBの音を用い両耳にイヤホンをし、音刺激2 秒間を2 回実施した。統計処理では、刺激の入力前後の差について対応のあるt検定を行なった。なお、統計解析はSPSS12.0 を使用し、有意水準は両側5%とした。【倫理的配慮、説明と同意】対象者には研究の主旨と方法に関しての説明を十分に行い、研究同意の撤回が常に可能であることを伝えたうえで、紙面による了承を得た。なお、本研究は国際医療福祉大学研究倫理審査委員会の了承を得ている(承認番号12-25)。【結果】聴覚刺激により、RTは有意に短縮し、FFDでは有意に増加した(p <0.05)。SLRとFRTでは有意差は認めなかった。【考察】聴覚刺激は即時的に、FFDを向上させ、RTを短縮させるということが示唆された。FFDが有意に増加した理由として、聴覚刺激により驚愕反射が誘発され全身の筋緊張が一時的に亢進したことで、Ib抑制原理により筋の緊張が弛んだためと考える。また、FFDは有意に増加したにもかかわらず、SLRの介入前後の平均値に有意差は見られなかった。このことから、FFDの改善にはハムストリングスの状態(SLR角度)は関与せず、腰背部の筋が影響していると考えた。RTにおいては、聴覚刺激による脳の賦活部位が拡大・活動量上昇し、神経・シナプス伝達速度の向上したことでRTの短縮につながったのではないかと考える。刺激強度が大きいほど反応時間は短いとされ、本研究で用いた刺激強度はRTを短縮する効果があるといえる。今後は異なる刺激との比較や持続時間、音刺激の強度を検証していく必要があると考える。【理学療法学研究としての意義】聴覚刺激が身体に与える影響について、柔軟性を向上させ、RTを短縮させることが示唆された。このことから、聴覚刺激は理学療法の有効な治療手段となり得る可能性があると考える。

収録刊行物

  • 理学療法学Supplement

    理学療法学Supplement 2012 (0), 48102002-48102002, 2013

    公益社団法人 日本理学療法士協会

詳細情報

  • CRID
    1390282680552722816
  • NII論文ID
    130004586094
  • DOI
    10.14900/cjpt.2012.0.48102002.0
  • 本文言語コード
    ja
  • データソース種別
    • JaLC
    • CiNii Articles
  • 抄録ライセンスフラグ
    使用不可

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