妊娠中の身体活動量と歩行変化の関連性

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抄録

【はじめに、目的】 妊娠によって、女性の身体には様々な解剖学的および生理学的変化が生じる。その為、精神面ではホルモン分泌量の変化からマタニティーブルーと言われる症状を生じ、身体面では腹部の膨らみや腰椎前彎の増加が起こり、動作面では立位姿勢や、快適歩行速度および歩幅の減少や歩隔の増加が報告されている。また、妊娠中は、体型変化や腰痛といったマイナートラブルの出現により、妊娠経過とともに活動量が減少すると言われている。一方で、妊娠中の適度な運動は、精神面では妊婦の抑うつ状態を減少させ、身体面では妊娠性糖尿病の予防や安産につながると報告されている。しかし、妊娠中の活動量と動作面との関係性を調査したものはみられない。本研究の目的は妊娠経過に伴う身体活動量と、生活の中で主となる動作の一つである歩行との関連性を検討することとする。【方法】 本研究は快適な妊娠生活と安産に向けた身体活動教育プログラムの開発に関する研究の1つの研究テーマとして、JSPS科研費23593295の助成を受けて行われた。対象者は、異常妊娠経過や妊娠経過に影響する疾患を有していない胎児心拍が確認された妊婦で、妊娠初期と中期に身体活動量と歩行の計測が可能であった7名 (30.3±3.9歳)とした。身体活動量は、歩数計 (ライフコーダEX、SUZUKEN社)を用いて4週間の日常生活における1日の平均歩数を算出した。この際、1日の記録が100歩未満である日を除外した。歩行計測は妊娠経過に伴い、Phase1 (平均妊娠週16.7±0.9週)、Phase2 (平均妊娠週28.8±0.8週)の各時期で行った。計測には3軸加速度計及び角速度計内蔵の小型ハイブリッドセンサを用い、両踵部にサージカルテープで装着した。歩行路は加速路と減速路をそれぞれ2.5mずつ、その中央20mを計測路とし、歩行を行った。得られた加速度データから波形が定常状態にある10歩行周期を解析に使用し、stride time (strT)、step time (steT)、stance time (staT)、swing time (swiT)の歩行周期時間、および歩行時の各位相の変動性を示す指標として変動係数 (coefficient of variation:CV)をそれぞれの時間に対して算出した。CVは値が大きいほど変動が大きく、不安定であることを意味する。解析方法は、各時期の比較を行うために歩行指標に対してpaired-tptestを用い、また、歩行指標および平均歩数の2変量の相関関係を表すためにPearsonの積率相関係数を算出した。統計学的有意水準は5%未満とした。【倫理的配慮、説明と同意】 本研究は、神戸大学大学院保健学研究倫理委員会の承認を得た後に実施し、対象者には研究内容を説明し、同意を得た。【結果】 Phase1からPhase2にかけて平均歩数が7978±4260歩から6874±2263歩(p = .362)、歩行速度が1.19±0.16 (m/s)から1.13±0.22 (m/s) (p = .201)へと減少し、各歩行指標が増加し、特に各歩行周期時間においてstrTが1.05±0.08 (sec)から1.14±0.11 (sec) (p = .009)、steTが0.53±0.04 (sec)から0.57±0.05 (sec) (p = .009)、staTが0.63±0.07 (sec)から0.70±0.09 (sec) (p = .023)へと有意に増加した。各歩行指標と身体活動の相関関係は、Phase1ではみられなかったが、Phase2では、歩行周期時間と身体活動量についてstrT (r = -0.78、p = .038)、steT (r = -0.78、p = .038)、staT (r = -0.78、p = .038)において、CVと身体活動量についてはsteT (r = -0.87、p = .012)、staT (r = -0.77、p = .043)、swiT (r = -0.79、p = .035)において強い負の相関関係がみられた。【考察】 本研究は、妊娠経過に伴い歩行の時間的指標である各歩行周期時間およびCVが増加し、さらにその増加は身体活動量の少ない妊婦ほど大きくなることを示した。これにより、妊娠中も継続的な歩行を行っている妊婦ほど、歩行の変化が小さくなると考えられ、妊娠中の身体活動は身体面、精神面のみならず動作面にも影響を与えることが示唆された。先行研究において、高齢者では歩行周期時間の変動が大きいと転倒リスクが高いことが報告され、変動の少ない安定した歩行を保つことは重要であるとされている。また欧米において妊婦の転倒率は約30%との報告もあり、妊婦においても歩行の変動性が転倒に関連している可能性も考えられるが、本研究は横断研究であり、対象者数も限られているため、今後更なる検討が必要である。しかしいずれにせよ妊娠中の歩行変化を減らし、安定した歩行を保つためにも、活動量の維持が重要であると考えられる。【理学療法学研究としての意義】 本研究結果は、妊娠期の女性の身体への負担が問題とされている中、日常的な歩行を推奨し妊娠中の身体活動量の低下を防ぐことが、歩行変化を小さくし、妊娠期特有のトラブルの少ない生活を送る一助となることを示していると考えられる。

収録刊行物

  • 理学療法学Supplement

    理学療法学Supplement 2012 (0), 48102043-48102043, 2013

    公益社団法人 日本理学療法士協会

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詳細情報 詳細情報について

  • CRID
    1390001205576065664
  • NII論文ID
    130004586124
  • DOI
    10.14900/cjpt.2012.0.48102043.0
  • 本文言語コード
    ja
  • データソース種別
    • JaLC
    • CiNii Articles
  • 抄録ライセンスフラグ
    使用不可

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