カーシートにおける姿勢評価とシーティング

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  • 花田 信
    医療法人若水会 関谷クリニック リハビリテーション科

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抄録

【はじめに、目的】近年、様々な種類の福祉車両が発売されておりユーザーの選択肢は広がり、それぞれの身体状況に合わせたタイプの車を選ぶことが出来るようになった。しかし、一般的に自家用車の使用期間は数年単位になることが多く、病状の進行に合わせてその都度車を買い替えていくことは難しい。また、スロープタイプなどの車椅子仕様車はカーシートへの移乗が省略できるので利便性に優れているが、出来れば車椅子のままではなくカーシートに座りたいという希望を持っているユーザーも存在する。このようなことから、既存のカーシートを使用する際にシーティングを行わなければならないケースがある。今回は比較的広い対象に応用可能な姿勢保持具の製作を行ったので事例をつうじて報告する。【方法】事例は遷延性意識障害の男性、Japan Coma Scale 200-A、Glasgow Coma Scale 計7点、人工呼吸器と在宅酸素使用、Hoffer座位能力分類では座位姿勢を保持できない座位能力3レベル。外出時はトヨタ製ヴォクシーのサイドリフトアップシート車(脱着タイプ)を使用している。既存のカーシートに座った場合、全体的に脊柱後彎姿勢になり頸部の過剰な伸展と殿部の前ずれがみられる。さらに大腿後面の遠位が座面に接地しておらず、一定時間使用すると殿部(尾骨部)の発赤が生じたり伸展パターンの筋緊張亢進が起こるため、通院など必要に迫られた場合のみで使用していた。シーティングは座面とバックサポートの形状をウレタンフォームによって修正する方法を選択した。この際、安全対策および作業を簡易化し低コストにするため、カーシート自体を改造するのではなく、面ファスナーでウレタンフォームを固定するのみとした。具体的には座面に後傾の座角度とアンカーサポートを設置し、下肢の安定をはかるため外転外旋防止の傾斜を緩やかにつけた。バックサポートにはぺルビックサポートおよびランバーサポートを設置し、脊柱が過度に後彎せず頭部が楽に支えられる角度に調整した。ヘッドサポートもやや前高方に修正し頸部の過伸展を防止した。この姿勢保持具は座位保持装置などを取り扱う業者に依頼し、理学療法士の指示のもとオーダーメイドで製作した。【倫理的配慮、説明と同意】発表については対象者およびその家族に目的と内容を説明し同意を得た。【結果】修正前と比較すると、着座30分後のズレ度(JSSC版)が12.2%から2.7%まで減少した。脊柱のアライメント改善(頸部の伸展は35度から15度に減少、胸腰部の後彎減少)により斜め上方を見上げていた頭部が正面を向き、伸展パターンの筋緊張も軽減した。加えてリクライニングの角度を以前よりも起こすことが可能になった。修正前は外転外旋防止のためにベルトで固定していた下肢が、座面の形状により安定した良肢位を保持できベルトは不要となった。また浮いていた大腿後面が接地し、尾骨部の発赤も消失した。以前は崩れてくる姿勢の修正を家族とヘルパーが頻繁に行っていたが、修正後はほとんど必要なくなった。またできるだけ乗り控えていた自家用車だったが、現在では長距離移動の旅行に使用するほどになった。【考察】福祉車両を買い替えずに、カーシートの修正をすることにより座位時の問題を一定部分軽減することができた。また褥瘡、関節拘縮、異常筋緊張の亢進など二次障害を予防する効果も期待できると考える。市販されている姿勢保持具やシートクッションの使用も検討されたが、ベルトやサポートの圧ストレスを避けるためや良好なアライメントを設定するためにオーダーメイドによる修正を選択した。費用に関しては5~6万円ほどかかるが、市販の姿勢保持具が数万~数十万円することを考えるとむしろ安価と言えるだろう。今回の修正方法の利点としては、短期間で比較的簡単に製作できるため車やカーシートを預けなくても良い事や対象者に合わせた微妙な調整が可能である点があげられる。課題としては、安全性や耐久性について確立されていない点、依頼できる業者が少ない点などがあげられる。【理学療法学研究としての意義】生活において自家用車は非常に有効なツールであるが、野呂らは「自動車シートの場合座り心地については改善の余地は大きい」と提言している。まだまだ姿勢保持能力の低い者も対象に含めて設計されたカーシートは少ない。今後、よりユニバーサルデザインのカーシートが開発されることを望みつつ研究を深めたい。

収録刊行物

  • 理学療法学Supplement

    理学療法学Supplement 2012 (0), 48102048-48102048, 2013

    公益社団法人 日本理学療法士協会

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