肺切除術前・周術期看護ケアが術後第1病日の理学療法にもたらす効果について

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  • ―院内連携教育による高品質な医療サービスの取り組み―

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抄録

【はじめに、目的】卒前教育では医学生・理学療法学生・看護学生が、一人の模擬患者に対して同時に専門的介入方法を学習する、連携教育が学習方略として定着しつつある。しかし、各施設で求められる卒後の専門職教育において、理学療法士が看護師向けの勉強会や講習会で講師を依頼される機会も多いが、クリニカルラダーのレベル設定が明確でなく学習方略も講義形式が一般的である。当院の呼吸器外科病棟では周術期呼吸ケアの技能的統一に対する取り組みに理学療法士も関わってきた。今回、肺切除術前呼吸練習の指導を中心に看護師への連携教育を実施することで、手術直後の肺の拡張性を確保する呼吸理学療法が安全に遂行できるようになることの妥当性を検討したので報告する。【方法】対象は平成23年9月から平成24年11月まで当院呼吸器外科で肺切除術を施行し、看護師による術前呼吸練習と術後第1病日に理学療法を実施した入院患者とした。周術期呼吸ケアに関する看護師への連携教育の内容は、下側肺障害予防のための体位変換と側臥位40~60度の良肢位保持に関する実技指導と冷水含嗽の推奨、トライボールを用いた努力性最大吸気練習の理論と実技指導、ハフィングの実技指導を2回実施した。その後新年度を迎えて病棟看護師の交代を機に、実施していた術前呼吸練習の具体的指導方法の問題点を検証して、術前呼吸練習は最短手術前3日間行い、トライボールは水色と青色の2個のボールが筒の最上部に2秒以上保持するのを5回、1日3セット自主トレーニングするように手順を改める内容で、再度連携教育を実施した。術後第1病日の理学療法は、午前11時半ごろより開始するように時間を設定し、平成23年度は臨床経験27年と5年の2名の理学療法士が担当し、平成24年度は臨床経験28年の理学療法士1名の担当とした。その理学療法項目は、塞栓症予防目的の足関節底背屈自動運動と下腿と足部のマッサージ(軽擦法)、立位ハーフスクワットは膝関節を屈曲しながら呼息、伸展しながら吸息の呼吸法を実施しながら10回、胸腔ドレーン管を固定しながら腹直筋を反対の手で押す咳の介助2~6回、ハフィングを5回指導しました。3回目の連携教育実施前後で得られた各項目の実施状況の差の検定には、比較する2群の分散が等しくないと仮定したためウェルチの検定を用いて、有意水準を5%とした。【倫理的配慮、説明と同意】肺切除術前呼吸練習と術後呼吸理学療法の趣旨と安全性を主治医より説明され、同意していただけた方のデータを採択した。【結果】平成23年度26名、平成24年度16名による術前トライボールを用いた肺容量拡張療法のコンプライアンスは平成23年度42.3%、平成24年度81.3%で有意差を認めた。術後第1病日の離床起立ハーフスクワット運動は平成23年度、平成24年度共に100%実施できた。術後第1病日までに自己喀痰が実施できたのは平成23年度80.8%、平成24年度87.5%、咳の介助が実施できたのは平成23年度88.5%、平成24年度87.5%、ハフィングが実施できたのは平成23年度73.1%、平成24年度93.8%で各項目の統計的有意差は認められなかった。また、術後に気管支鏡を用いて気道の清浄化を図ったのは平成23年度1例のみであった。【考察】肺切除術が決定された段階で術前呼吸練習が看護師により開始されることにより、呼吸法指導を介して手術を直前に控えた患者さんの心理的不安を緩和できるようであった。また手術直後の集中ケアにおいて、疼痛のコントロールを行いながら術中の輸液バランスや脱水、酸素療法の加湿不足による口腔内乾燥を冷水での含嗽を行うことで痰の喀出を促せた。また、末梢気道からの痰の移動には器具を用いた肺容量拡張療法で習得した一定の吸気流速を維持したcritical opening pressureを越える圧が加わることで痰が破れて肺胞に空気が流入し、B痰の自己喀出を促すことができた。気道の清浄化が早まることで呼吸器への負担が軽減され、術後第1病日に全例で離床・起立姿勢を保持できたことは無気肺や皮下気腫等の合併症を防ぐ確率が高まることが示唆された。【理学療法研究としての意義】連携教育の必要性と効果判定を提示できたことは、当院の経営方針である安全な医療の提供を証明することができた。まだ、肺切除術後と限られた分野であるが、卒後の看護師教育における理学療法士の関わり方を科学的に評価することは、病院の文化の醸成に役立つであろう。

収録刊行物

  • 理学療法学Supplement

    理学療法学Supplement 2012 (0), 48102074-48102074, 2013

    公益社団法人 日本理学療法士協会

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