Pain Visionを用いた客観的疼痛評価 下肢症状を伴う腰部疾患を対象とした主観的疼痛評価と客観的疼痛評価の比較検討

DOI
  • 古沢 俊祐
    医療法人社団三水会 北千葉整形外科 理学診療部
  • 橋川 拓史
    医療法人社団三水会 北千葉整形外科 理学診療部
  • 天尾 辰也
    医療法人社団三水会 北千葉整形外科 理学診療部
  • 寺門 淳
    医療法人社団三水会 北千葉整形外科 M.D/Ph.D
  • 大鳥 精司
    千葉大学大学院医学研究院 整形外科学 M.D/Ph.D

抄録

【目的】理学療法において疼痛評価は治療の効果判定や介入手段を選択する上で非常に重要な評価である。近年、全人口の13%が慢性疼痛を保有していることが報告されており、QOLの著しい低下が問題視されている。疼痛伝達の経路には大脳皮質感覚野に至る一次痛の伝達経路と大脳辺縁系に至る二次痛の伝達経路があり二次痛では情動・認知・記憶等への影響もあることから主観的疼痛評価の信頼性を疑わざる負えない事を多く経験する。また国際疼痛学会では疼痛を侵害受容性疼痛、神経障害性疼痛、疼痛性障害の3 つに分類している。しかし腰部疾患由来の下肢痛はしびれなどの異常感覚を伴うことが多く、侵害受容性疼痛や神経障害性疼痛が複雑に混在する。さらに疼痛が長期化する例においては情動的要素が関与しやすいことから主観的な疼痛評価だけでは信頼性が低い。この度、嶋津により考案された知覚・痛覚定量分析装置Pain Vision PS-2100(ニプロ株式会社)は客観的疼痛評価機器として期待されている。Pain Visionはパルス電流にてAδ線維とAβ線維を刺激し痛みではない異種感覚を疼痛に置き換えて定量化する。そこで我々は、下肢症状を有する腰部疾患患者を対象にPain Visionを用いた客観的疼痛評価、従来用いられている主観的疼痛評価であるNumeric Rating Scale(以下NRS)、Straight Leg Raising(以下SLR)を測定し客観的疼痛評価の有用性とQOLとの関連性を検証したので報告する。【方法】対象は下肢症状を有する腰部疾患患者39 名(男性19 名、女性20 名、平均年齢60.7 ± 13.8 歳)とした。症状持続期間は15.8 ± 18.8 ヵ月であり、39 名中31 名が3 ヶ月以上症状を保有していた。それらの患者に対し、Pain Visionにより算出した痛み度(Pain Degree:以下PD)、NRS、SLRを測定し、腰部疾患の特異的QOL尺度であるRoland-Morris Disability Questionnarie(以下RDQ)を調査した。Pain Visionの測定では、はじめに電極を前腕内側に装着し、最小感知電流値を得た。次いで、対象者が感じている痛みと電気刺激の平衡を感知した値から、痛み対応電流値を得た。これらの値から(痛み対応電流−最小感知電流)/最小感知電流の式に当てはめPDを算出した。解析は、各測定項目とRDQの関係をPearsonの相関係数にて検討した。さらにRDQを目的変数とし、年齢、症状持続期間、PD 、NRS、SLRを説明変数としたステップワイズ重回帰分析にて解析した。有意水準は5%未満とした。【倫理的配慮、説明と同意】本研究は当院の倫理委員会の承認を得た後に実施した。対象者には口頭にて本研究の十分な説明を行い、同意を得た。【結果】各項目の平均値はPDが241.0 ± 261.9、NRSが5.5 ± 2.5、SLRが62.6 ± 18.2°、RDQが5.6 ± 5.1 点であった。RDQとの相関係数はPD(r=0.403)、NRS(r=0.364)でありそれぞれ有意な相関(p<0.05)を認めた。さらに、RDQとSLRの相関係数はr=-0.499(p<0.01)と高い相関を認めた。重回帰分析の結果、RDQに影響を与える因子としてSLR とPDが抽出された(R 2 =0.395)。RDQへの寄与の大きさを示す標準偏回帰係数は、SLRでβ=-0.483(p<0.01)、PDでβ=0.383(p<0.01)であった。【考察】Pain Visionによる客観的疼痛評価は、先行研究においても変形性膝関節症などの侵害受容性疼痛や、帯状疱疹後神経痛などの神経障害性疼痛に対する有用性が報告されている。今回、下肢症状を有する腰部疾患由来に対して調査したが、PDはNRSとともにQOL評価であるRDQと有意な相関を認めたことから、侵害受容性疼痛や神経障害性疼痛が複雑に混在した患者に対しても疼痛評価として、いずれも有用性があると示唆された。また、RDQはSLRとの間に強い相関関係が認められた。腰部疾患における一般的な下肢症状は、神経根に対する物理的圧迫とサイトカインの存在により生じると言われている。SLRは神経根にそれらの病態が存在する可能性を表すテストであることから、神経根の刺激症状が強いものほどQOLが低い結果になったと考えられる。さらに重回帰分析の結果、RDQに影響を与える因子としてPDがSLRとともに抽出されたが、NRSは抽出されなかった。このことから下肢症状を有する腰部疾患において、NRSとPDはともにQOLと有意な相関を認めたものの、PDはNRSと比較してQOLとの関連性が高いことが明らかになった。Pain Visionによる客観的疼痛評価は従来の主観的疼痛評価と比べ腰部疾患患者においてより有用な疼痛評価であることが示唆された。【理学療法学研究としての意義】今後は、症状の罹患期間に応じたPain Visionを用いた客観的疼痛評価の調査を進め、慢性疼痛患者の治療効果判定や介入方法を選択する上で有効な評価手段として検証していきたい。

収録刊行物

  • 理学療法学Supplement

    理学療法学Supplement 2012 (0), 48102157-48102157, 2013

    公益社団法人 日本理学療法士協会

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詳細情報 詳細情報について

  • CRID
    1390001205576380416
  • NII論文ID
    130004586199
  • DOI
    10.14900/cjpt.2012.0.48102157.0
  • 本文言語コード
    ja
  • データソース種別
    • JaLC
    • CiNii Articles
  • 抄録ライセンスフラグ
    使用不可

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