体幹回旋可動域と胸郭拡張差の関連

DOI
  • 関根 康浩
    医療法人社団 鎮誠会 リハビリテーション科
  • 土居 健次朗
    医療法人社団 鎮誠会 リハビリテーション科
  • 河原 常郎
    医療法人社団 鎮誠会 リハビリテーション科
  • 大森 茂樹
    医療法人社団 鎮誠会 リハビリテーション科 千葉大学大学院 医学研究科 神経内科学
  • 倉林 準
    杏林大学 保健学部 理学療法学科
  • 門馬 博
    杏林大学 保健学部 理学療法学科
  • 八並 光信
    杏林大学 保健学部 理学療法学科

抄録

【はじめに、目的】胸郭は胸椎・肋骨・胸骨からなり、呼吸運動を行う呼吸器でもあり、また体幹の動きを円滑にする為の運動器でもある。胸郭には136個の関節が存在すると言われており、個々の関節がわずかな可動域制限を生じる事でも身体に大きな影響を与える。しかし胸郭の動きは定量化しにくい部位であり運動器としての報告はまだ少ない。体幹回旋動作は日常生活やスポーツでも欠かせない動作の1つである。胸郭は体幹運動を行う際に肋骨と胸椎の動きに伴い様々な形態に変化する。胸郭の運動は肋椎関節の運動軸の違いによって胸郭の運動は上部・下部で動きが異なり、それぞれpump-handle motion(以下、PHM)、bucket-handle motion(以下、BHM)と呼ばれている。体幹回旋動作は、主に股関節を中心とした下肢の報告が多く胸郭との関連を述べたものは少なかった。今までの報告によると体幹回旋動作と胸郭の関係は十分に明らかにされていなかった。本研究では胸郭拡張差(腋窩レベル、剣状突起レベル、第10肋骨レベル)と体幹回旋可動域との関係を明らかにする事とした。【方法】対象は整形外科的疾患がなく、著明な呼吸器疾患を有さない、非喫煙者である健常成人男性12名(平均年齢24.1±1.6歳、BMI21.2±1.8)とした。胸郭拡張差については股関節90°・膝関節90°屈曲位の端座位にて、腋窩レベル:第6胸椎棘突起(以下、Th6)、剣状突起レベル:第9胸椎棘突起(以下、Th9)、第10肋骨レベル:第12胸椎棘突起(以下、Th12)を通る3レベルでの安静時と最大吸気時の胸郭拡張差を算出した。体幹回旋動作は三次元動作解析装置VICON MX(Vicon、カメラ7台、200Hz)を用い、ソフトは VICON NEXUS1.6.1を使用した。マーカセットは、両肩峰、Th6、Th9、Th12の高さにおける体幹前後面、両PSISの計10点とした。体幹回旋角度は、肩峰、腋窩、剣状突起、第10肋骨、各レベルの2つのマーカ間の線分と両PSISを結んだ線分における水平面上の交わる角度とした。運動課題は、下肢を椅子に固定し、左右最大回旋動作を行った。運動課題時は、肩甲帯の前方突出を防ぐための棒を用いて上肢を固定した。さらに運動課題中は口頭にて側屈動作が起きないように指示し、確認しながら計測を行った。呼吸との同期については安静呼気時に回旋を行うよう統一した。得られた胸郭拡張差は、各レベルでの中央値を基準に制限がある群とない群の2群に分類した。Th6・Th9・Th12の胸郭拡張差と各レベルの回旋角度について2群間の各レベルでの体幹回旋可動域について、二元配置分散分析を行い比較した。有意水準は危険率5%とした。【倫理的配慮、説明と同意】所属法人における倫理委員会の許可を得た。対象には、ヘルシンキ宣言をもとに、保護・権利の優先、参加・中止の自由、研究内容、身体への影響などを口頭および文書にて説明した。同意書に署名が得られた対象について計測を行った。【結果】胸郭拡張差は腋窩レベルで3.1±1.1cm、剣状突起レベルで5.1±0.9cm、第10肋骨レベルで3.7±2.1cmであった。体幹回旋角度は肩峰レベルで67.9±18.3度、腋窩レベルで59.5±16.4度、剣状突起レベルで47.3±12.3度、第10肋骨レベルで28.9±6.82度であった。第10肋骨レベルの胸郭拡張差制限がある群とない群に有意差はなかった。制限がある群での体幹回旋角度は制限がない群と比べ低い値を示した。その他のレベルと体幹回旋角度に有意差と特徴的な変化は見られなかった。【考察】本研究結果から第10肋骨レベルでの胸郭拡張差がない群は同一レベルの体幹回旋角度において大きい値を示し、ある群はない群と比較し小さい値を示した。第10肋骨は下位肋骨に分類される。下位肋骨の動きはBHMであり、肋骨頸が上位胸椎のPHMよりも、より上下方向に滑る動きである。下位胸郭可動性が低いということは、BHMが出にくく、肋骨頸の可動性が低下していることが考えられ、体幹回旋可動域に制限が生じたと推察された。また下部肋骨には腹筋群が付着するため、その柔軟性も影響していると考えられた。本研究ではすべてのレベルにおいて体幹回旋角度に有意差を認めなかったが、体幹回旋動作は下位胸郭の拡張性が必要である可能性が考えられた。臨床やスポーツの現場では、体幹回旋動作で症状を訴える症例に対して、下位胸郭の評価を行う必要性が示唆された。【理学療法学研究としての意義】本研究は体幹回旋動作と胸郭拡張性の関連性を検討した。体幹回旋動作は、上位胸郭よりも下位胸郭の関与が大きい傾向があった。今後、評価・治療の際に着目していく必要性があると考えられる。

収録刊行物

  • 理学療法学Supplement

    理学療法学Supplement 2012 (0), 48102167-48102167, 2013

    公益社団法人 日本理学療法士協会

詳細情報 詳細情報について

  • CRID
    1390282680553080320
  • NII論文ID
    130004586205
  • DOI
    10.14900/cjpt.2012.0.48102167.0
  • 本文言語コード
    ja
  • データソース種別
    • JaLC
    • CiNii Articles
  • 抄録ライセンスフラグ
    使用不可

問題の指摘

ページトップへ