アロHLA抗原に対する拒絶反応の基礎免疫学

  • 入江 厚
    熊本大学大学院生命科学研究部・免疫識別学分野
  • 西村 泰治
    熊本大学大学院生命科学研究部・免疫識別学分野

書誌事項

タイトル別名
  • Basic immunology of immune response to allogeneic HLA

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抄録

移植片に対する拒絶反応の重要な原因である,同種異系(アロ)HLA ⁄ ペプチド複合体(アロpHLA)に対するT細胞の強い免疫応答は,T細胞レセプター(TCR)がアロpHLAを直接認識して,活性化されることに起因する。本来,自己のHLAに結合した非自己抗原ペプチドの複合体(cognate pHLA)を認識するはずのTCRが,どのようにしてアロpHLAを認識するのか,その根底にあるメカニズムを解明できれば,移植前にドナーとレシピエントのHLA型の違いを解析することにより,起こり得るアロ反応の強弱を予測できるかも知れない。これが可能となれば,移植医療に携わる者にとって福音となるはずである。これまでに,いくつかのTCR ⁄ アロpHLA(MHC)の複合体の立体構造が明らかにされ,TCRが本来認識するcognate pHLA(MHC)との複合体の構造と比較検討されている。その結果TCRの直接アロpHLA(MHC)反応性のメカニズムとして,少なくとも以下の3つの様式があることが明らかとなっている。:1)アロpHLA(MHC)の立体構造がcognate pHLA(MHC)のものと酷似するために,TCRが交差反応により認識する場合(分子擬態;molecular mimicryと呼ぶ),2)アロpHLA(MHC)の立体構造がcognate pHLA(MHC)と異なっていても,TCRのみならずペプチドとHLA(MHC)のいずれもが,柔軟に立体構造を変化させて会合する場合(induced fitと呼ぶ),および,3)同一のTCRがcognate pHLA(MHC)の場合とは全く異なるドッキング様式により,アロpHLA(MHC)と会合する場合(disparate dockingと呼ぶ)である。このように,TCRとアロpHLA(MHC)の会合様式は多様であり,T細胞の直接アロpHLA(MHC)認識を一元的に説明することは出来ない。いっぽう,移植後の慢性拒絶反応において,抗ドナーHLA-IgG抗体が産生されるメカニズムとして,レシピエントのB細胞上の自己HLAクラスII分子と,これにより提示されたアロHLA抗原由来のペプチドを認識する,レシピエントのCD4陽性ろ胞ヘルパーT細胞(follicular Th-cell)による,間接アロpHLA(MHC)認識反応が必須であることが,最近のマウスの実験系により明らかにされている。

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