希少種アマミノクロウサギ Pentalagus furnessi の遺存形質としての音声コミュニケーションと外来哺乳類への捕食リスクの可能性

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抄録

 アマミノクロウサギは,現在奄美大島と徳之島に生息するが,かつては(150-170万年前)沖縄島には生息していたという(小澤2009).本種は,ウサギ科 Leporidaeの種分化の初期に誕生し,ウサギ科の原始的特徴を持ち,有力な捕食性哺乳類が存在しなかった奄美大島と徳之島に遺存固有的に生存してきたと考えられる(Corbet 1983; Yamada et al. 2000).原始的特徴として,短い四肢,短い耳介,小さな眼,水平に広い椎骨の横突起など,さらに音声コミュニケーションがあげられる.アナウサギタイプの本種は,湿潤亜熱帯の森林に住み,日中は巣穴で休息し夜間に採食と排糞尿などの活動を行う夜行性である.本種は活動の開始時や活動中に頻繁に音声を発するが,詳細な野外研究はなかった.そこで,本種の生息地において,活動時間帯に音声を録音しスペクトラム分析を行った.採音方法は,林道上に駐車した車両内でデジタル録音機とマイクロフォンで記録し,ウサギとの距離は約 10-30mであった.音声周波数は 6-12kHzの範囲で,環境中の音(コオロギなど)よりも高かった.1回の鳴き声(バウト)は,1-4回程度の音声(エレメント)で構成された.1つの音声(エレメント)の波形は,小文字の n字形や m字形を示し,1つのエレメントの持続時間は 0.3-0.8秒程度であった.音量は 60-90dBであった.このような音声コミュニケーションの利用は,捕食性哺乳類からの攻撃に不利と考えられ,現存する他のウサギ科の種では認められず淘汰された可能性がある.本種の音声コミュニケーションは,捕食性哺乳類の不在の島嶼において,遺存的に保存されてきた種的特徴の 1つと言える.それゆえ,奄美大島と徳之島における近年の外来哺乳類(ネコ,イヌ,あるいはマングース)の生息は,クロウサギにとって捕食リスクを高める可能性があると考えられる.

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  • CRID
    1390282680610322048
  • NII論文ID
    130004654727
  • DOI
    10.14907/primate.29.0.221.2
  • 本文言語コード
    ja
  • データソース種別
    • JaLC
    • CiNii Articles
  • 抄録ライセンスフラグ
    使用不可

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