化学物質総合管理の総合経営への進化

DOI
  • 増田 優
    お茶の水女子大学 ライフワールド・ウオッチセンター 化学生物総合管理学会 社会技術革新学会 知の市場

書誌事項

タイトル別名
  • Innovation of integrated management of chemicals

抄録

従来WHO,ILO,UNEPが担ってきた化学物質管理の論議に,1970年代半ばからOECD(経済協力開発機構)が健康や環境とともに貿易や経済への影響を未然防止することを目指して参画した。OECDは先ず,テストガイドライン(TG)や優良試験所規範(GLP)に加えて製品を市場に出す前に最低限必要な試験評価項目として上市前最小評価項目(MPD)を確立した。<br>世界の学界が論じた社会のための科学や政策のための科学に連なる規範科学(Regulatory Science)という概念と軌を一にするこのOECDの活動を通して,労働者,消費者,市民に環境生物も含めて包括的に評価する化学物質総合管理の概念が確立した。 この概念とそれに基づく制度や方法論は,1992年の国連環境開発会議や2002年の持続可能な発展に関する世界首脳会議, 2006年の国際化学物質管理会議などを通して世界に広まった。そして工業用や農業用の化学物質のみならず食品や医薬品も化学物質総合管理の対象範囲に含まれることで合意した。<br>米国は1980年代に欧州は2000年代に,そして近年,韓国,中国,台湾,フィリピンなども,化学物質総合管理の概念のもと分立する規制法群を整理して化学物質のリスクを包括的に管理する法律を整備するとともに,これを一元的に統括する行政体制を整備してワンストップサービスを実現した。<br>欧州が包括法 (REACH規則) を競争力委員会で審議したことで明白な通り,化学物質総合管理は健康や環境のみならず全ての産業の競争力に直結する。包括法の未整備な日本にリスク未確認の製品が流入し,国民の健康や環境に脅威を与えつつ悪貨が良貨を駆逐するが如く国内産業を苦境に追い込む。分立する規制官庁への対応に多くの経費と時間を費やすうちに事業機会を喪失する。<br>貿易立国である日本は今や貿易赤字に直面している。世界の潮流に呼応して早急に化学物質総合管理のための包括的な法律を整備しつつ一元的な行政体制を構築し,付加価値を創出する総合管理の総合経営への進化を促すことが必須である。

収録刊行物

詳細情報 詳細情報について

  • CRID
    1390001205545451264
  • NII論文ID
    130004676578
  • DOI
    10.14869/toxpt.40.1.0.1065.0
  • 本文言語コード
    ja
  • データソース種別
    • JaLC
    • CiNii Articles
  • 抄録ライセンスフラグ
    使用不可

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