転写因子Nrf2のROS—ERK経路を介した血管傷害後のリモデリング調節機構

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  • Regulatory mechanism of neointimal formation after vascular injury by transcription factor Nrf2 via inhibiting ROS—ERK pathway

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抄録

活性酸素種(ROS)は,血管平滑筋細胞(VSMC)において細胞内伝達分子として機能し,血管傷害の修復に重要な遊走能や増殖能を亢進する。一方で,過剰なROSはVSMCの機能障害を引き起こし,血管内膜肥厚や動脈硬化の原因となるため,血管の恒常性維持にはROSの制御が重要となってくる。抗酸化タンパク質遺伝子群の発現を統合的に制御する転写因子Nrf2は,生体において酸化ストレス防御系の中心的な役割を担っている。しかしながら,血管リモデリングにおけるNrf2の機能は明らかとなっていない。以上の背景から本研究では,ROSにより増強されるVSMC遊走と血管内膜新生におけるNrf2の役割について検討を行った。マウス大腿動脈ワイヤー傷害モデルを用いて傷害血管におけるNrf2の発現を検討したところ,内膜新生の早期の段階で管腔側のVSMCにおいて強い発現が認められた。さらにNrf2遺伝子欠損(KO)マウスにおいて血管傷害後の新生内膜肥厚が亢進した。このメカニズムを解明するために,VSMC遊走を刺激する血小板由来増殖因子(PDGF)を用いてin vitroにおける検討を行った。VSMCをPDGFで刺激すると,細胞内ROSレベル(133%)の上昇と,Nrf2の核移行が認められ,さらにNrf2の標的遺伝子であるNAD(P)H:quinone oxideresuctase-1(271%),heme oxygenase-1(366%),thioredoxin-1(154%)の誘導が観察された。そこで,siRNAを用いてNrf2阻害実験を行った結果,ROSレベル上昇が増強(150%)し,その下流シグナル伝達因子ERKのリン酸化が持続した。さらに,Nrf2 siRNAを処置したVSMCでは,PDGFによる細胞遊走能が亢進(183%)した。そこで,血管傷害後のERKリン酸化を観察したところ,Nrf2 KOマウスの新生内膜部位で強いERKリン酸化が認められた。以上の結果から,Nrf2はPDGF刺激によるROS–ERKの系を制御し,VSMC遊走と血管リモデリングを調節していることが示唆された。

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