振動刺激による感覚刺激入力はラット足関節不動化モデルの痛覚閾値の低下を抑制する

DOI
  • 濵上 陽平
    長崎大学大学院医歯薬学総合研究科 医療科学専攻 リハビリテーション科学講座 運動障害リハビリテーション学分野 社会福祉法人十善会 十善会病院 リハビリテーション科
  • 関野 有紀
    長崎大学大学院医歯薬学総合研究科 医療科学専攻 リハビリテーション科学講座 運動障害リハビリテーション学分野
  • 田中 陽理
    社会医療法人 長崎記念病院 リハビリテーション部
  • 坂本 淳哉
    長崎大学病院リハビリテーション部
  • 中野 治郎
    長崎大学大学院医歯薬学総合研究科 保健学専攻 理学・作業療法学講座 理学療法学分野
  • 沖田 実
    長崎大学大学院医歯薬学総合研究科 医療科学専攻 リハビリテーション科学講座 運動障害リハビリテーション学分野

抄録

【目的】 我々はこれまで,ラット足関節不動化モデルにみられる痛覚過敏に関して調査し,いくつかの知見を得てきた.具体的には,不動2週目から痛覚過敏が生じ,同時期に足底表皮の菲薄化,末梢神経密度の増加が観察され,また,不動期間が8週間におよぶと不動を解除しても痛覚閾値の低下は回復せず,脊髄後角細胞にも感作が認められた.つまり,本モデルにおける痛覚過敏には末梢組織と感覚神経系の両者が関わっていることが示唆され,その一因として感覚刺激入力が不動によって減弱することを考えている.一方,Andreら(2007)の臨床研究によれば,複合性局所疼痛症候群(CRPS)患者の患部に対して感覚刺激入力として振動刺激を負荷したところ,痛みの程度が回復したとされており,大変興味深い結果である.これまでのところ,その作用機序は不明であるが,不動が一要因とされているCRPSとラット足関節不動化モデルの間に類似性があるとすれば,振動刺激は不動に伴う痛覚閾値の低下に対しても有効である可能性は高い.そこで本研究では,ラット足関節不動化モデルに対して振動刺激を負荷し,痛覚閾値の低下,皮膚組織の変化,感覚神経系の変化に対する影響を検討した.【方法】 本実験では,8週齢のWistar系雄性ラット20匹を無処置の対照群(n=4)とギプスを用いて右側足関節を最大底屈位の状態で8週間不動化する実験群(n=16)に振り分け,さらに,実験群は不動のみを行う群(不動群;n=8)と不動の過程で振動刺激を負荷する群(振動群;n=8)に分けた.実験期間中は,すべてのラットに対して週に1回の頻度で,von Frey filament (VFF;4,8,15g )刺激を用いた機械的刺激に対する痛み反応の評価を行った.また,振動群に対してはバイブレータ(メディアクラフト社製)を用いた振動刺激を右側足底部に15分間負荷し,その頻度は週5日とした.実験期間終了後,足底部の皮膚組織,第4腰髄ならびに後根神経節(DRG)を採取した.そして,組織学的・免疫組織化学的手法を用い,足底皮膚組織における末梢神経密度,表皮厚の計測,DRGにおけるカルシトニン遺伝子関連ペプチド(CGRP)陽性細胞の断面積の計測,脊髄後角におけるCGRP陽性線維の分布状況の解析を行った.なお,DRGと脊髄後角におけるCGRP陽性の細胞・神経線維は,一次感覚神経細胞の可塑的変化の指標として用いた.【倫理的配慮】 本実験は,長崎大学動物実験委員会が定める動物実験指針に基づき,長崎大学先導生命体研究支援センター・動物実験施設において実施した.【結果】 機械的刺激に対する痛みを評価した結果,不動群では不動2週目から4,8,15gすべてのVFF刺激に対する痛み反応が増強し,痛覚過敏の発生が確認された.また,その症状は不動期間に準拠して顕著となった.一方,振動群では4gのVFF刺激に対する痛み反応は変化せず,8,15gのVFF刺激に対する痛み反応は増強したものの,不動群と比較して有意に軽度であった.次に,組織学的・免疫組織化学的解析の結果,足底の表皮厚は不動群,振動群,対照群の順に有意に低値を示し,また,末梢神経密度は対照群に比べ不動群,振動群は有意に高値を示し,不動群と振動群の間に有意差は認められなかった.DRGにおいては,対照群に比べ不動群,振動群のCGRP陽性細胞の面積は有意に高値を示し,CGRP陽性細胞の大型化が認められたが,不動群と振動群を比較すると振動群の方が有意に低値を示した.また,脊髄後角に分布するCGRP陽性の神経線維は,不動群,振動群,対照群の順に多かった.【考察】 今回の結果,不動の過程で振動刺激による感覚刺激入力を促すと,不動に伴う痛覚過敏を軽減できる可能性が示唆された.また,その作用機序には振動刺激によって足底表皮の菲薄化,DRGにおけるCGRP陽性細胞の大型化,脊髄後角におけるCGRP陽性線維の増加が抑制されることが関与していると推測される.先行研究によれば,不動によって生じるDRGのCGRP陽性細胞の大型化,脊髄後角のCGRP陽性線維の増加は,広作動域ニューロンの活性化と増加を引き起こし,このことが痛覚過敏発生の要因になると報告されている.そしてこれらの変化は,振動刺激という感覚刺激入力によって抑制されたことから,痛覚過敏の発生には末梢に対する感覚刺激入力の減弱が一要因になっていたと推察する.ただ,足底表皮の菲薄化が抑制されたことに関しては,痛覚閾値や振動刺激との関係が明らかではなく,また,他種の感覚刺激入力によっても振動刺激と同じような効果が得られるかどうかは不明で,今後さらに検討を加えていきたい.【理学療法学研究としての意義】 本研究は,不動が原因で発生する痛みの治療手段として,振動刺激による感覚刺激入力の有効性を示したものであり,痛みの予防と治療を考えていくための理学療法研究として十分な意義があると考えられる.

収録刊行物

  • 理学療法学Supplement

    理学療法学Supplement 2011 (0), Aa0892-Aa0892, 2012

    公益社団法人 日本理学療法士協会

キーワード

詳細情報 詳細情報について

  • CRID
    1390282680549780224
  • NII論文ID
    130004692335
  • DOI
    10.14900/cjpt.2011.0.aa0892.0
  • 本文言語コード
    ja
  • データソース種別
    • JaLC
    • CiNii Articles
  • 抄録ライセンスフラグ
    使用不可

問題の指摘

ページトップへ