ラット後肢懸垂中の間歇的荷重及び全身振動運動による廃用抑制効果

DOI
  • 金口 瑛典
    広島国際大学大学院 医療・福祉科学研究科 医療工学専攻
  • 小澤 淳也
    広島国際大学 保健医療学部 総合リハビリテーション学科
  • 山岡 薫
    広島国際大学 保健医療学部 総合リハビリテーション学科

書誌事項

タイトル別名
  • ─筋収縮張力低下と歩行能力低下に着目して─

抄録

【はじめに、目的】 我々は2011年度の本学会において、ラット後肢懸垂による筋萎縮と毛細血管数減少に対する間歇的な荷重 (weight bearing: WB) 及び全身振動運動 (whole-body vibration: WBV) の効果を検証し、WBは筋萎縮に、WBVは筋萎縮と毛細血管数減少の両方に対して抑制効果があることを明らかにした。そこで今回、WBやWBVによる筋萎縮の抑制は、筋収縮張力の低下を抑制し、その結果、歩行能力が維持されると仮説を立てて検証を行った。【方法】 8週齢の雄性Wistar ratを使用し、通常飼育群 (CONT群、n = 10)、後肢懸垂群 (HS群、n = 10)、後肢懸垂期間中に1日20分間のWBを行う群 (HS + WB群、n = 9)、後肢懸垂期間中に1日20分間のWBVを行う群 (HS + WBV群、n=10) の4群に分けた。後肢懸垂は尾部懸垂法を用い、実験期間は2週間とした。WBは1日20分間懸垂を中止し、四肢荷重を行った。WBVは全身振動刺激装置 (JET-VIBE: YKC社) を用い、四肢荷重状態で4分間の垂直振動 (55 Hz) と1分間の休止のサイクルを4セット (計20分間) 毎日行った。実験終了後、15度の昇り勾配で、幅3 cm、長さ100 cmの角材 (ビーム) 上を歩行する所要時間を測定するbeam walking testを行った。30秒以内で歩行可能であったものを歩行可能群、不可能であったものを歩行不能群と規定した。なお、歩行途中にビーム上で立ち止まるもの、ビーム上での立位姿勢は可能だが歩行しないものは除外した。また、ビーム上で立位姿勢をとれないものは歩行不能群とした。また、各群5匹 (HS + WB群のみ4匹) のラットを使用し、修正クレブス液中でヒラメ筋の等尺性強縮張力 (20 Hz) を測定した。統計処理は一元配置分散分析を行い、有意差が認められた場合には多重比較を行った。なお、beam walking testの結果に対しては、χ二乗検定を適用した。有意水準は5%未満とした。【倫理的配慮、説明と同意】 本研究は,広島国際大学動物実験委員会の承認を得て (承認番号 AE09- 010) 実施した。【結果】 beam walking testの結果、歩行可能群の割合 (歩行可能数/全歩行数) はCONT群で100% (9/9)、HS群で20% (2/10)、HS + WB群で89% (8/9)、HS + WBV群で75% (6/8) であった。CONT群は他の群と比較して歩行可能群の割合が有意に多く、歩行不能群の割合が有意に少なかった。一方で、HS群は歩行可能群の割合が有意に少なく、歩行不能群の割合が有意に多かったことから、後肢懸垂によって歩行能力が低下したことが示された。また、HS + WB群とHS + WBV群は他の群と比較して、歩行可能群および不能群の割合に有意差がなかったことから、後肢懸垂による歩行能力の低下を抑制したことが示された。摘出ヒラメ筋強縮張力について、CONT群に対する割合はHS群で8%、HS + WB群で37%、HS + WBV群で24% でありいずれも有意に低下したが、HS + WB群とHS + WBV群はHS群よりも有意に大きかった。また、HS + WB群とHS + WBV群間に有意差はなかった。【考察】 後肢懸垂中に間歇的なWBやWBVを行うと、行わなかった場合と比較してビーム歩行可能群の割合が大きく増加した。また、後肢懸垂後の摘出筋の収縮張力はWBやWBVにより有意に低下が抑制されたことから、筋収縮張力低下の抑制が歩行機能の向上に貢献した可能性を示唆する。さらに、廃用による筋力低下への影響は、筋萎縮よりも神経活動低下の要因が大きいと予想されるが、廃用期間中に運動を行うことで神経活動は維持される (Kawakami et al., 2001) と報告されている。したがって、歩行時に発揮される筋力は、in vitroで測定された筋収縮張力と比べ、HS群とHS + WB群およびHS + WBV群間の差が大きくなることが予測される。WBVはWBの廃用抑制効果に相乗的な作用を与えると予測したが、効果はいずれのパラメータに対してもWBと同程度であった。WBVは、伸張反射を介して筋収縮を誘発する (Ritzmann et al., 2010) が、筋紡錘の機能は後肢懸垂によって顕著に低下する (Zhao et al., 2010)。したがって、廃用筋においては反射性の収縮を十分に誘発することが出来なかったと考えられた。【理学療法学研究としての意義】 WBやWBVは、複雑な動きを必要としないため比較的安全であり、虚弱高齢者や認知症患者にも適用しやすい。本研究の結果から、廃用期間中に短時間の間歇的WBやWBVを行うことで、筋機能や歩行能力をある程度維持できる可能性が示唆された。

収録刊行物

  • 理学療法学Supplement

    理学療法学Supplement 2011 (0), Aa0898-Aa0898, 2012

    公益社団法人 日本理学療法士協会

詳細情報 詳細情報について

  • CRID
    1390001205573039488
  • NII論文ID
    130004692341
  • DOI
    10.14900/cjpt.2011.0.aa0898.0
  • 本文言語コード
    ja
  • データソース種別
    • JaLC
    • CiNii Articles
  • 抄録ライセンスフラグ
    使用不可

問題の指摘

ページトップへ