トレッドミル走運動負荷による被殻内c-fosタンパク質の発現:高脂血症マウスによる検討
抄録
【はじめに、目的】 高脂血症に対する対策として運動療法が広く行われている。しかし運動療法がどのような機序で有効性を発揮するのか、特に脳を介する過程は明らかとなっていない。そこで本研究では高脂血症マウスを対象として、トレッドミル走運動負荷が骨格筋の緊張や不随意運動の調節の中枢である被殻にどのような影響を及ぼすのか、c-fosの発現をマーカーとして検討した。【方法】 生後5週、雄のC57BLマウスに高脂肪飼料であるHigh fat diet 32(CLEA JAPAN, INC)を4週間与えて肥育し,高脂血症マウスを作成した。この高脂血症マウスをトレッドミル走運動負荷(1回/1日、運動時間:20分、速度:12m/min、傾き:5度)を週5回行ったマウスと運動を全く行わなかったマウスとに分け、運動期間4週間後、パラホルムアルデヒドで灌流固定し脳を摘出した。5μmに薄切した切片を、ABC法により染色し、被殻における一定面積当たりのc-fos陽性細胞数を数え、c-fos陽性細胞数が発現した割合を比較検討した。【倫理的配慮、説明と同意】 研究機関等における動物実験等の実施に関する基本指標」に基づき制定された「秋田大学動物実験規定」に従い、秋田大学動物実験倫理委員会の審査承認を得て行った。【結果】 運動負荷を行ったマウスにおいて、c-fos陽性細胞数(34%)が多数観察されたが、非運動負荷マウスにおいてはc-fos陽性細胞数(22%)と全体的に少なかった。【考察】 c-fosは様々な外的刺激により急速にかつ一過性に発現することにより、刺激に対して反応する脳の部位の検索に有効とされ、細胞レベルでの神経活性のマッピングに用いられている。そしてニューロンの活動性の指標となる。大脳基底核の一部である被殻は錐体外路系の主要な中枢であり、骨格筋の緊張や不随意運動の調節を行う脳内の部位である。今回運動負荷により被殻内でのc-fos陽性細胞の発現がより強く見られたことから、高脂血症に対する走運動負荷は直接的な末梢での脂質代謝改善作用だけでなく、錘体路系の活動をより活発にする作用があること、そしてそこから二次的な効果が運動器系にもたらされている過程があるものと考察した。【理学療法学研究としての意義】 高脂血症の対策として運動療法が行われ、適切な運動の種類、強度、頻度、回数、期間により運動効果が得られるとされている。そしてその効果は血清脂質改善機序により説明されている。本研究において、骨格筋の緊張や不随意運動の調節に関与する錐体外路系の主要な中枢である被殻の活発な働きが、被殻内でのc-fos陽性細胞の発現により説明され、さらに運動療法の効果を「科学的根拠に基づいた医療:Evidence-based medicine:EBM」に即して説明できるのではないかと考える。
収録刊行物
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- 理学療法学Supplement
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理学療法学Supplement 2011 (0), Ab0461-Ab0461, 2012
公益社団法人 日本理学療法士協会
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詳細情報 詳細情報について
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- CRID
- 1390001205573007232
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- NII論文ID
- 130004692405
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- 本文言語コード
- ja
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- データソース種別
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- JaLC
- CiNii Articles
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- 抄録ライセンスフラグ
- 使用不可