体幹筋の筋疲労が姿勢調節機能に与える影響

DOI
  • 田尻 勝
    JA長野厚生連 北信総合病院 リハビリテーション科 信州大学大学院医学系研究科保健学専攻
  • 木村 貞治
    信州大学医学部保健学科理学療法学専攻

Abstract

【はじめに、目的】  体幹の筋力低下を有する症例が坐位保持練習などを実施している際,体幹筋の筋疲労により体幹のアライメントが崩れることがある.先行研究では体幹筋の筋疲労が生じた場合,体幹の基準位置角度と閉眼して再現した体幹位置角度(リポジショニングアングル,以下,RA)との差であるリポジショニングエラーが増大すると報告されている.しかし,リポジショニングエラーを指標として体幹筋の筋疲労による固有感覚の変化を検証した報告は非常に少なく,また,筋疲労課題の強度が高く設定されているのが実情である.さらに,体幹筋の筋疲労課題前後におけるRAの比較は行われているが,RAと体幹基準位置角度との絶対誤差は解析されていない.そこで,本研究は,中等度の疲労課題に基づく体幹筋の筋疲労を生じさせた時の体幹のRAと基準位置角度との差を課題の前後で比較することにより,体幹筋の筋疲労が体幹の姿勢調節機能に及ぼす影響を定量的に検証することを目的とした.【方法】  対象は,健常成人47名(男性27名,女性20名)で,年齢は平均23.6歳(19歳~36歳)であった.測定の順序効果を考慮して47名の被験者を疲労課題の後に安静課題を行う群(24名)と,安静課題の後に疲労課題を行う群(23名)とに乱数表を用いて無作為に割り付けた.疲労課題は,体幹30°屈曲位にて背筋力用アタッチメント(竹井機器工業製,T.K.K.5710c)とデジタル背筋力測定器(竹井機器工業製,T.K.K.5710a)を用い,まず脊柱起立筋の最大等尺性随意収縮力(以下,MVC)を測定した.次に50%MVCで持続的に等尺性収縮を実施させ,40%MVCに低下した時点で課題を終了することとした.安静課題は,背もたれのない椅子を用い10分間の安静坐位とした.RAの測定は,腰部に固定したジャイロセンサ(多摩川精機製,特性)を用い,体幹30°屈曲位を基準位置としてその角度を記憶し,そのまま一旦開始位置に戻った後,再度体幹30°屈曲位と感じる位置に閉眼したまま体幹を再現した時の角度を検者がジャイロセンサのモニタから読み取り記録した. RAの測定は,両課題の前後でそれぞれ2回ずつ実施し,2回の平均値を代表値とした.両群ともに各課題間の測定間隔は1週間とした.統計解析は,SPSS PASW Statistics 18.0(SPSS Inc.,Chicago,IL,USA)を用い,RAデータの級内相関係数(以下,ICC)を求め,次に基準値である30°と各測定条件のRAのグループ平均との差について1サンプルt検定を実施した.また,両課題の課題前後および課題間の比較を対応のあるt検定を用いて解析した.なお,有意水準をボンフェローニ補正にて1.25%とした.【倫理的配慮、説明と同意】  被験者募集の掲示板および説明会で協力を申し出た者に対し,本研究の目的と内容を十分説明し,本研究への参加の同意を書面にて得た.また,本大学の医学部医倫理委員会の承認を得て実施した(承認番号 1574).【結果】  各測定データのICCは0.67から0.81と中等度以上の信頼性を示した.基準位置である体幹30°屈曲位とRAとの差について1サンプルt検定を用いて解析した結果,疲労課題と安静課題の前後の全ての測定データにおいて有意差が認められた.また,両課題の課題前後および課題間について対応のあるt検定を用いて解析した結果,疲労課題の前後で有意差が認められ,疲労課題後にRAが増大したが,安静課題の前後では有意差が認められなかった.また,課題間である疲労課題後と安静課題後の比較では疲労課題後の方が有意にRAの値が大きかったが,疲労課題前と安静課題前の間には有意差が認められなかった.【考察】  基準位置角度とRAとの差について解析した結果,両課題前後の全てのデータにおいて有意差が認められたことから,疲労が生じていない状態でも基準位置を正確に再現することは困難であると考えられた.また,課題前後および課題間の比較により,体幹筋の筋疲労後にRAが有意に増大したことから,中等度の筋疲労でも固有感覚のずれが大きくなる可能性があるものと示唆された.以上より,ある程度体幹筋の筋疲労が生じている状態では,自己の位置覚のイメージと実際に発揮される身体運動との間の誤差が大きくなる可能性があることから,腰部の組織に対する機械的ストレスが増大する可能性があることが示唆された.【理学療法学研究としての意義】  体幹筋の筋疲労が腰部の運動制御に及ぼす影響を定量的に解析することで,筋疲労時の腰部への機械的ストレスの増大による腰痛発生を予防するための方略を検討する必要性について提言できるものと考える.

Journal

Details 詳細情報について

  • CRID
    1390282680549445376
  • NII Article ID
    130004692424
  • DOI
    10.14900/cjpt.2011.0.ab0656.0
  • Text Lang
    ja
  • Data Source
    • JaLC
    • CiNii Articles
  • Abstract License Flag
    Disallowed

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