等尺性収縮における筋活動電位の立ち上がりによる神経要因の検討

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抄録

【はじめに、目的】 筋出力の評価として,筋力発揮時の力曲線における発揮勾配,つまり単位時間あたりの力の変化率の最大値(力の最大発揮勾配;Rate of Force Development;RFD)が用いられている.先行研究では,レジスタンストレーニングや神経系トレーニング前後のRFDの増加は,Iaシナプス前抑制が関与する神経要因によると報告されている.すなわち,それらのRFD の増加に関して,収縮要素だけではなく神経要因の関与が示唆されている.近年我々は,筋電図より得られた信号をもとに筋活動電位の変化率の最大値(Rate of Rise of absolute EMG amplitude;RRE)を検討した(Kamimura et al., 2009).RFDは神経要因と収縮要素の複合であるので,RFD の解析のみでは神経要因の検討としては不十分である.すなわち,筋出力発揮時の神経要因の関与を明らかにするには,筋活動電位から得られる信号をもとに筋活動電位の変化率の最大値(Rate of Rise of absolute EMG amplitude;RRE)を検討することにより,神経的要因を検討できると考えた.また,RRE が筋活動における神経要因の指標をあらわすならば,RRE が筋活動測定の新たな指標になりうると考えられる.本研究では,収縮強度を変化させた肘関節伸展におけるRFD とRRE の関係を検討することにより,RRE の妥当性を明らかにすることを目的とした.【方法】 被験者は健康かつ活動的で,肘関節に既往症または外傷等の経験のない男性8名とした.被験者は等尺性にて肘関節伸展時の筋出力を測定した.筋活動(EMG)は上腕三頭筋から導出した.事前に動作を慣れさせるため,等尺性の肘関節伸展を複数回行わせた.次に,5秒間の最大伸展を3回行わせ,最も高かった値を最大随意収縮(MVC)とした.その後,目標収縮強度を4段階に変化させた肘関節伸展を4回ずつ計16回行わせた.4段階の目標収縮強度は25%,50%,70%,100%MVCとし,被験者ごとに無作為に収縮強度を組み合わせランダムに行わせた.それぞれの休息時間は5分とした.発揮された筋出力は,被験者前方に置かれたモニター上に表示し,被験者には目標の強度に合わせるよう指示した.力の最大発揮勾配(RFD)は筋出力発揮を微分し,肘関節伸展相での最初のピークとした.筋活動電位の最大変化率 (RRE)を算出するために区分周波数4Hzのガウシアンフィルターを用いて,筋電図信号(RMS amplitude)を平滑化した.平滑化した信号を微分し,最初のピーク振幅をRREとした.被験者により偏差が異なるため,RFD及びRREは,5秒間の肘関節等尺性最大伸展の値によって標準化した.測定値は平均値±標準誤差で示した.各測定条件におけるRFDとRREの相関関係はピアソンの相関係数を用いて求めた.危険率はすべて5%とした.【倫理的配慮、説明と同意】 本研究は倫理委員会の承認を得て,被験者には事前に十分な説明を行い参加の同意を得た.【結果】 RFD及びRREは,目標収縮強度とほぼ同程度の値を示した.各収縮強度において,それぞれRFDとRREの間に有意な相関関係を示した.また,RFDとRREは,収縮強度の増加と共にほぼ直線的に増加し,全データによる相関係数は0.824(p<0.001)で有意な正の相関関係を示した.【考察】 実験の結果,収縮強度の増加に伴いRFDとRREはほぼ直線的に増加した.100%MVCの強度では事前のMVCよりも高くなる傾向を示したが,その要因として動作に対して慣れが起こったことにより,大きな値となった可能性が考えられる.また,各収縮強度におけるRFDとRREは高い正の相関関係を示した.本研究の結果からRREはRFDと同様に低い運動強度に対しても収縮強度を反映する値となることが明らかとなった.先行研究では,レジスタンストレーニングや神経系トレーニング前後では,Iaシナプス前抑制などの神経要因により,力の発揮勾配が増加する事を報告している.RFDは神経要因と収縮要素の複合であるのに対し,RREは神経要因のみである.つまり,これまでに検証されてきたRFDに比べ収縮要素を考慮せずに神経要因を検討するには,本研究のRREのような指標がより神経要因の影響を明らかにできると考えられた.【理学療法学研究としての意義】 本研究は筋活動の解析において新たなる指標となりうる可能性があり,診断のための基礎的知見として意義があると考えられる.

収録刊行物

  • 理学療法学Supplement

    理学療法学Supplement 2011 (0), Ab1065-Ab1065, 2012

    公益社団法人 日本理学療法士協会

詳細情報 詳細情報について

  • CRID
    1390001205572627968
  • NII論文ID
    130004692489
  • DOI
    10.14900/cjpt.2011.0.ab1065.0
  • 本文言語コード
    ja
  • データソース種別
    • JaLC
    • CiNii Articles
  • 抄録ライセンスフラグ
    使用不可

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