反復性肩関節脱臼既往者の肩関節屈曲時の瞬間回転中心

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  • ─健常者との比較─

抄録

【はじめに、目的】 肩関節は骨性支持に乏しい不安定な関節であるため,反復性脱臼を最も頻発する関節であるとされている.反復性肩関節脱臼既往者(以下脱臼既往者)では,上肢挙上時に肩関節の不安定感や疼痛の訴えがあり,理学療法の対象となる.脱臼既往者の肩関節の動態解析はX線画像やMRIなど静的な計測が多い.そこで本研究の目的は,三次元動作解析装置にて肩関節屈曲時の瞬間回転中心(以下ICR)を測定し健常者と脱臼既往者で比較し,脱臼既往者の肩関節の動態を明らかにすることである.【方法】 対象は,肩関節に障害のない健常成人男性9名(平均年齢22.0±0.7歳,平均身長172.5±6.4cm,平均体重61.8±7.1kg)と脱臼既往者1名(年齢21歳,身長168.0cm,体重59.0kg)とした.計測課題は,椅子座位(骨盤前後傾0°,膝関節屈曲90°)で上肢下垂位(肘伸展位)から屈曲最終域までの肩関節屈曲運動とした.健常者は全例右側,脱臼既往者では患側(左側)を測定した.被験者には屈曲動作時に脊柱の動きが極力生じないよう指示し,2秒間で屈曲最終域に達するよう計測前に数回練習を行った.計測は3次元動作解析装置(Vicon MX)を用い,サンプリング周波数は100Hzとした.反射マーカーを,前腕中央の表裏をなす部位と手関節中央部,Th4,Th9,胸骨頸切痕部,肩峰,大腿骨大転子部の8箇所に貼付し,空間座標データを計測した.各座標を大腿骨大転子に貼付したマーカーが原点となるように補正し,前腕部のマーカーの座標から経時的に矢状面でのICRを求めた.また,体幹及び前腕に局所座標系を定義し,その相対角を肩関節屈曲角とした.石田らにより,ICRは動作の始めと終わりで誤差が大きくなると報告されているため,屈曲角30°~120°までデータを採用した.屈曲角30°~60°を前期,60°~90°を中期,90°~120°を後期と相分けを行った.解析にあたりICRの散布図を作成した.【倫理的配慮、説明と同意】 計測を行うにあたり,各対象者に対して本研究内容の趣旨を十分に説明し本人の承諾を得た後,計測を実施した.【結果】 健常者の各相のICRの散布図では,前期では後上方と前下方を結ぶ直線に,後期では前上方と後下方を結ぶ直線にICRが分布していた.脱臼既往者は,前期では健常者と変わらない結果となったが,中期,後期になるにつれてばらつきが大きくなり後期では一定の傾向は示されなかった.【考察】 脱臼既往者では健常者と比較すると肩関節屈曲角度が大きくなるにつれてICRのばらつきが大きくなり,後期では一定の傾向が示されない結果となった.三森らは動揺性肩関節の上肢挙上動作時の肩関節瞬間回転中心を測定し軸斜位像の60°以上ではばらつきが大きく一定の傾向を示さないことを報告し,この理由の一つとして関節包の弛緩を挙げている.また,反復性肩関節脱臼の原因として多くのものがあげられているが,現在では関節包の弛緩,臼蓋前下縁の損傷,骨頭後上方の骨欠損が最重要なものと考えられていて,本研究の脱臼既往者は3度の前方脱臼を経験しており,関節包の弛緩が生じていると推測される.そのため,動揺性肩関節と同様の動態が起きていることが考えられ三森らの結果と類似したものと思われる.また,正常肩関節では上肢挙上に伴い肩関節内圧の上昇が生じ不安定性が増加するため,関節安定化機構は腱板筋など筋活動によって補われる.一方,脱臼既往者では関節包の弛緩が生じており,関節内圧は高い状態であると報告されており,これに加え,腱板筋機能の低下が生じていることが推測され上肢挙上に伴い生じる関節内圧の上昇を腱板筋にて補えていないことが考えられる.これらが原因で脱臼既往者では,肩関節屈曲角度が増加するにつれてICRのばらつきが大きくなったと考えられる。 【理学療法学研究としての意義】 本研究は三次元動作解析装置にて計測を行うことでリアルタイムでのICRの計測が可能なため,肩関節の動態解析に非常に有用であると考える.今回,肩関節屈曲動作時では脱臼既往者では健常者とは異なった動態が生じていることが示された.脱臼既往者では関節包の弛緩や腱板筋機能の低下により肩関節屈曲時の瞬間回転中心はばらつきが大きくなることが確認できた.この状態で動作を繰りかえすとメカニカルストレスが生じ二次的障害が起こることが推測される.今後は,脱臼既往者の被験者数を増やし,筋機能を含めた測定を行い,さらに詳細な動態の検証が求められる.

収録刊行物

  • 理学療法学Supplement

    理学療法学Supplement 2011 (0), Ab1082-Ab1082, 2012

    公益社団法人 日本理学療法士協会

詳細情報 詳細情報について

  • CRID
    1390001205572640000
  • NII論文ID
    130004692506
  • DOI
    10.14900/cjpt.2011.0.ab1082.0
  • 本文言語コード
    ja
  • データソース種別
    • JaLC
    • CiNii Articles
  • 抄録ライセンスフラグ
    使用不可

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