糖尿病性骨減少症についての基礎的研究

DOI
  • 髙木 聖
    髙木プロジェクト 鈴鹿医療科学大学保健衛生学部医療栄養学科
  • 山下 剛範
    鈴鹿医療科学大学保健衛生学部放射線技術科学科
  • 安藤 直樹
    髙木プロジェクト
  • 三浦 俊宏
    鈴鹿医療科学大学保健衛生学部医療栄養学科

書誌事項

タイトル別名
  • ─遺伝的2型糖尿病モデル動物(KK-Ayマウス)における特性─

抄録

【はじめに】 近年、糖尿病(以下、DM)患者において骨折リスクが高くなることが多くの研究で示されており、DMと骨減少症との関係が注目されている。一般に1型DMでは非DMと比べて骨密度が減少し、それが骨折リスクの原因と考えられている。しかし、2型DMにおいては骨折リスクが高いにもかかわらず骨密度は正常あるいは高値であることが報告されている。また、その一方で骨密度が減少するとの報告もみられ、未だ一致した見解は得られていない。そこで今回われわれは、遺伝的2型DMモデル動物を用いて週齢に伴う大腿骨の骨密度変化を調べるとともに血糖値ならびに骨代謝マーカーとの関係について検討した。【方法】 遺伝的2型DMモデル動物(KK-Ayマウス)雄7匹を使用した。コントロールとして正常モデル動物(ddYマウス)雄5匹を使用した。骨密度の測定;右大腿骨近位部ならびに骨幹中央部の骨密度を小動物用に改良したDXA(dual energy X-ray absorption;DICHROMA SCAN DCS-600, ALOKA)を用いて8週齢から23週齢まで5週間隔で測定した。測定は抱水クロラール麻酔下にて、両股・膝関節伸展位にて行った。全ての測定は同じ放射線技師が施行した。血糖値の測定;血液サンプルは非絶食状態にてキャピラリーにて眼窩静脈洞より採取した。測定は8週齢から23週齢まで5週間隔でGlucose C2-test(Wako純薬工業)を用いて行った。血中オステオカルシン(以下、OC)値の測定:8週齢および18週齢においてmouse osteocalcin EIA kit BT-470 (Biomedical technologies)を用いて行った。統計学的分析;データは標準±標準誤差にて示した。KK-Ayマウスの各週齢における骨密度および血糖値については一元配置分散分析ならびに多重比較としてTukey’s HSD testを用いた。KK-AyマウスとddYマウスの比較は対応のないt検定を用いた。KK-Ayマウスにおける骨密度と血糖値の関係はPearson’s correlation testを用いた。いずれの場合も危険率5%未満を有意な差と判断した。【倫理的配慮】 実験は動物実験施設の実験動物の飼養及び保管等に関する基準(2006年、環境省告示第88号)にしたがって行った。【結果】 KK-Ayマウスの大腿骨近位部の骨密度は8週齢43.6±3.2 mg/cm2、13週齢41.1±2.3 mg/cm2、18週齢35.8±1.6 mg/cm2、23週齢35.1±1.9 mg/cm2であった。8週齢と比較して18週齢ならびに23週齢において有意な減少が認められた。18週齢と23週齢との間に差はなかった。ddYマウスの骨密度は8週齢47.6±1.2 mg/cm2、18週齢57±3.1 mg/cm2であった。KK-AyマウスとddYマウスとの比較では8週齢においては差がなかったが、18週齢においてはKK-Ayマウスの値が有意に低かった。KK-Ayマウスの骨幹中央部の骨密度は8週齢から順に42.7±1.7 mg/cm2、41.4±1.1 mg/cm2、44.8±1.8 mg/cm2、42.9±1.9 mg/cm2であり、週齢による有意な差はみられなかった。ddYマウスにおいては8週齢41.5±0.7 mg/cm2、18週齢51.5±3.1 mg/cm2で、KK-Ayマウスとの比較では両週齢ともに差はみられなかった。KK-Ayマウスの血糖値は8週齢から順に374±21.2mg/dl、457±33.7 mg/dl、506±19.5 mg/dl、528±25.0 mg/dlであり、8週齢と比較して18週齢および23週齢において有意な上昇がみられた。また、大腿骨近位部の骨密度と有意な負の相関(r=-0.96)が認められた。OC値はKK-Ayマウスにおいて8週齢2.8±0.1 ng/ml、18週齢1.7±0.04 ng/mlで有意な減少が認められた。ddYマウスにおいては8週齢、18週齢ともに2.9±0.2 ng/mlであった。KK-AyマウスとddYマウスとの比較では8週齢においては差がなかったが、18週齢ではKK-Ayマウスの値が有意に低かった。【考察】 骨幹中央部においては骨密度の変化はみられなかったが、近位部においては週齢に伴う減少がみられたことからDMは海綿骨に影響をおよぼすことが示唆された。また、その減少は週齢に伴う血糖値の上昇と相関がみられたことからDMの進展や罹病期間と関連すると考えられた。さらに、近位部の骨密度が低下する時期において同様に骨形成マーカーであるOC値の低下がみられたことから血糖値の上昇によって骨形成機能が障害されることが示唆された。したがって2型DMの骨折予防には早期からの血糖値のコントロールが重要であると考えられる。今後、骨密度減少のメカニズムを解明するために多因子との関連についてさらなる検討が必要であろう。【理学療法学研究としての意義】 年々増加するDM患者の骨折を予防することは重要な課題である。そのためにDM性骨減少症の病態について解明する必要があると考えられ、本研究はモデル動物を用いてそれを検証したものである。

収録刊行物

  • 理学療法学Supplement

    理学療法学Supplement 2011 (0), Ab1100-Ab1100, 2012

    公益社団法人 日本理学療法士協会

詳細情報 詳細情報について

  • CRID
    1390001205574049024
  • NII論文ID
    130004692524
  • DOI
    10.14900/cjpt.2011.0.ab1100.0
  • 本文言語コード
    ja
  • データソース種別
    • JaLC
    • CiNii Articles
  • 抄録ライセンスフラグ
    使用不可

問題の指摘

ページトップへ