膝関節屈曲拘縮モデルラットの皮膚の線維化の発生状況の検討

DOI
  • 後藤 響
    平成会 介護老人保健施設 ナーシングケア横尾 長崎大学大学院医歯薬学総合研究科 保健学専攻 理学・作業療法学講座(修士課程)
  • 坂本 淳哉
    長崎大学病院 リハビリテーション部
  • 佐々部 陵
    長崎大学大学院医歯薬学総合研究科 保健学専攻 理学・作業療法学講座(修士課程)
  • 本田 祐一郎
    長崎大学大学院医歯薬学総合研究科 リハビリテーション科学講座 運動障害リハビリテーション学分野(博士課程) 社会医療法人 長崎記念病院リハビリテーション部
  • 近藤 康隆
    日本赤十字社 長崎原爆病院リハビリテーション科
  • 片岡 英樹
    社会医療法人 長崎記念病院リハビリテーション部
  • 中野 治郎
    長崎大学大学院医歯薬学総合研究科 保健学専攻 理学・作業療法学講座
  • 沖田 実
    長崎大学大学院医歯薬学総合研究科 リハビリテーション科学講座 運動障害リハビリテーション学分野

抄録

【はじめに、目的】 われわれは関節不動によって惹起される拘縮の発生メカニズムについて多面的に検索を進め,これまでに骨格筋,関節包,関節軟骨といった結合組織の組織学的変化が拘縮の要因であることを明らかにしてきた.ただ,われわれの先行研究において上記以外に皮膚の変化が関与しているという可能性を見出していたものの,その詳細については明らかにできておらず,課題となっていた.一方,強皮症モデルマウスの皮膚を組織学的に解析した報告によれば,主に線維性結合組織で構成される真皮ならびに脂肪細胞で構成される皮下組織に線維化が生じ,これが皮膚性拘縮の発生に関与しているとされている.この報告を参考にすると,不動によって惹起される拘縮においても皮膚の線維化がその一因になっている可能性が考えられるが,この点について検討した報告は見当たらない.そこで本研究では,膝関節屈曲拘縮モデルラットを用い,皮膚の線維化の発生状況について組織学的手法により検討した.【方法】 実験動物には12週齢のWistar系雄性ラット36匹を用い,両側後肢を股・膝関節最大屈曲位,足関節最大底屈位にて1・2・4週間ギプス包帯で不動化する不動群(各6匹,計18匹)と無処置の対照群に振り分け,対照群は不動群と週齢を合わせるため13・14・16週齢まで通常飼育した(各6匹,計18匹).不動を開始する前は,各群すべてのラットを麻酔し,0.3Nの張力で膝関節を伸展させた際の可動域(ROM)を測定した.また,各不動期間終了時は上記の方法でROMを測定し,その後,膝関節後面の皮膚を縦切開して再度ROMを測定した.そして,ROM制限に対する皮膚の関与率を算出するため,皮膚切開前後のROMの差を求め,これを各不動期間終了時のROMで除し,百分率で表した.なお,対照群は皮膚の切開を行わず,麻酔下でROMを測定した.ROM測定後は両側膝関節後面の皮膚を採取し,組織固定,凍結包埋処理を行った.その後,各試料から20μm厚の横断切片を作製し,Hematoxilin & Eosin(H&E)染色を施し,検鏡した後に各試料の染色像をコンピューターに取り込んだ.そして,画像解析ソフトを用いて視野内に確認できる脂肪細胞と線維性結合組織それぞれの面積を計測し,これらを真皮から皮下組織の総面積で除して百分率で表したものを脂肪細胞,線維性結合組織それぞれの占める割合とした.なお,統計処理として,各不動期間における対照群と不動群の比較にはMann-WhitneyのU検定を,各群における不動期間の比較にはKruskal-Wallis検定とsheffe法による事後検定を適用した.有意水準はすべて5%未満とした.【倫理的配慮、説明と同意】 本実験は,長崎大学動物実験指針に基づき長崎大学先導生命科学研究支援センター・動物実験施設で実施した.【結果】 不動群のROMは各不動期間とも対照群に比べ有意に低値で,しかも不動期間の延長に伴い有意な低下が認められた.また,ROM制限に対する皮膚の関与率は各不動期間とも10%前後であり,有意差は認められなかった.両群の染色像を観察すると,対照群では線維性結合組織からなる真皮と脂肪細胞からなる皮下組織が観察されるのに対し,不動群では皮下組織の脂肪細胞が減少し線維性結合組織が増加しており,特に不動2・4週では脂肪細胞が消失し線維性結合組織に置換されている染色像も観察された.次に画像解析の結果として,真皮から皮下組織における脂肪細胞が占める割合は各不動期間とも不動群は対照群に比べ有意に低値を示し,不動期間で比較すると不動1週に比べ2・4週は有意に低値で,不動2週と4週の間には有意差を認めなかった.一方,線維性結合組織の占める割合は各不動期間とも不動群は対照群に比べ有意に高値を示し,不動期間で比較すると不動1週に比べ4週は高値を示した.【考察】 今回の結果から,不動期間に関係なくROM制限の10%前後は皮膚に由来しており,これはラット尖足拘縮モデルを用いて検索した岡本ら(2004)の先行研究と一致していた.つまり,皮膚も拘縮の責任病巣の一つといえる.そして,不動群において真皮から皮下組織の脂肪細胞が減少し,線維性結合組織が増加していた結果は,不動によって皮膚の線維化が発生していることを示唆しており,このことが皮膚に由来した拘縮の病態の一つと考えられる.ただ,線維化の発生メカニズムについては明らかにできておらず,この点については今後の検討課題と考える.【理学療法学研究としての意義】 本研究は,不動による皮膚の線維化が拘縮発生の一因となる可能性を示唆しており,理学療法の主要ターゲットである拘縮の病態解明,治療方法確立の一助になる成果と考える.

収録刊行物

  • 理学療法学Supplement

    理学療法学Supplement 2011 (0), Ab1110-Ab1110, 2012

    公益社団法人 日本理学療法士協会

キーワード

詳細情報 詳細情報について

  • CRID
    1390282680550765952
  • NII論文ID
    130004692534
  • DOI
    10.14900/cjpt.2011.0.ab1110.0
  • 本文言語コード
    ja
  • データソース種別
    • JaLC
    • CiNii Articles
  • 抄録ライセンスフラグ
    使用不可

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