ACLTモデルラットに対する運動負荷が関節軟骨に及ぼす影響

DOI
  • 山口 将希
    京都大学大学院医学研究科人間健康科学系専攻運動機能解析学講座
  • 黒木 裕士
    京都大学大学院医学研究科人間健康科学系専攻運動機能解析学講座
  • 伊藤 明良
    京都大学大学院医学研究科人間健康科学系専攻運動機能解析学講座
  • 張 項凱
    京都大学大学院医学研究科人間健康科学系専攻運動機能解析学講座

抄録

【はじめに、目的】 変形性関節症(OA)は、関節軟骨の変性を伴う変性疾患であり、メカニカルストレスをはじめ様々な要因によって発症することが知られている。動物実験ではGaloisなどにより運動が関節軟骨に及ぼす影響として、長期的、あるいは高強度の運動ではOAが進行する一方で、軽度または中等度の運動で関節軟骨の修復があるという相反する運動効果について報告がなされている。しかし、運動強度に関する比較検討はそれほどなされていない。実験動物では、現在、前十字靱帯切除(ACLT)を行なって、OAを誘起させるモデルが世界中で広く用いられている。そこで本実験ではラットにACLTを行なって、OAモデルを作成し、このモデルに対する運動が関節軟骨に及ぼす影響を運動強度、時間経過別に評価することを目的とした。【方法】 対象は8週齢のWistar系雄ラット18匹を対象とし、3日間の通常飼育を行ない、4日目から1週目までトレッドミル走行に慣れさせる運動適応を行なった。その後、16匹には麻酔下にて右後肢に対し、ACLTを行い、OAモデルとした。9週齢ラット(平均体重226.8g)を無作為に4群(2週無負荷群 n=3、2週中等度負荷群 n=4、2週高強度負荷群 n=4、4週負荷群 n=4)に分類した。無処置の2匹をcontrol群として、中等度負荷のみ行った。運動負荷はラット用トレッドミルにて負荷を与えた。負荷強度は中等度速度とされる18m/minとし、2週中等度負荷群にはこの負荷を30分間、週3回、2週間与えた。2週高強度負荷群には同じ速度の負荷を60分間、週3回、2週間与えた。2週無負荷群には負荷を与えず2週間ケージ内飼育のみとした。Control群(ACLT無処置群)には同じ速度の負荷を30分間、週3回、2週間与えた。4週負荷群には2匹には同じ速度の負荷を30分間、週3回、4週間与えた。残り2匹には同じ速度の負荷を60分間、週3回、4週間与えた。運動はすべて1日以上の間隔をあけて与えた。飼育後、ラットを安楽死させ、膝関節標本を摘出し、4%パラホルムアルデヒドにて組織固定を行なった。固定後、PBSにて置換した後、EDTA中性脱灰処理した。脱灰後、パラフィン包埋処置を行い、包埋したサンプルをミクロトームにて6㎛切片に薄切した。組織観察は薄切した切片をトルイジンブルーおよびHE染色にて染色し、OARSI(Osteoarthritis Research Society International)のGrade、StageおよびScoreスコアおよびステージを用いて顕微鏡下で膝関節軟骨の組織評価を行った。統計処理は2週無負荷群、2週中等度負荷群、2週高強度負荷群はクラスカルワリス検定を行い、Scheffe法で多重比較し、有意水準を5%とした。Control群および4週負荷群は統計処理せずに観察のみ行なった。【倫理的配慮、説明と同意】 本研究は所属大学動物実験委員会の規定に準じて行なった。【結果】 2週無負荷群、2週中等度負荷群、2週高強度負荷群OARSI Gradeはそれぞれ0.7±0.5、1.3±1.1、3.3±0.8で無負荷群と中等度負荷群のあいだには有意差を認めなかったが、無負荷群と高強度負荷群のあいだに有意差を認めた(P<0.05)。Stageはそれぞれ1.3±1.3、1.5±1.1、2.5±0.9であった。Scoreはそれぞれ1.3±1.2 、3±3.5 、8.5±4.6であった。StageおよびScoreにおいては各群に有意差を認めなかった。またcontrolのGrade、Stage、Scoreはいずれも0であった。【考察】 OAモデルラットにおける運動負荷では中等度の負荷により、2週という短期間では関節軟骨のOA進行に対して著明な悪影響を及ぼさないことが示唆された。しかし高強度の運動負荷では2週という短期間でもOAの進行を促進させることが示唆された。この高強度で4週間の運動負荷が与えられるとOAは明らかに進行することがわかった。【理学療法学研究としての意義】 最近の報告では、ヒトOAに対する荷重状態での運動負荷はOA進行の抑制、進行両面の効果を持つことが示唆されている。今回の研究結果は、ラットにおいてもOAが進行しない負荷と、進行する負荷とがあることを示している。これらの負荷が及ぼす長期的影響の検討は今後の課題であるが、理学療法の臨床においても軟骨変性への影響を考慮した運動強度を意識する必要があると考える。

収録刊行物

  • 理学療法学Supplement

    理学療法学Supplement 2011 (0), Ab1116-Ab1116, 2012

    公益社団法人 日本理学療法士協会

詳細情報 詳細情報について

  • CRID
    1390282680550723712
  • NII論文ID
    130004692540
  • DOI
    10.14900/cjpt.2011.0.ab1116.0
  • 本文言語コード
    ja
  • データソース種別
    • JaLC
    • CiNii Articles
  • 抄録ライセンスフラグ
    使用不可

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