長期間の持久運動はマウス腓腹筋の廃用性筋萎縮に伴うTNF-αとatrogin-1/MAFbxの発現を抑制する

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抄録

【はじめに、目的】 ユビキチン-プロテアソーム系は主要なタンパク質分解系の1つであり,廃用性筋萎縮では,本系の活性が上昇することが知られている.TNF-αはユビキチン-プロテアソーム系の上流に位置する因子であり,その発現量の増加は筋線維におけるタンパク質の分解を促進するとされている.高強度のレジスタンス運動は萎縮筋におけるTNF-αの発現を軽減し,廃用性筋萎縮の予防に有効である.一方,低強度の持久運動が廃用性筋萎縮の予防に有効であるかどうかは不明であり,筋萎縮予防に対する運動療法プロトコルとしての根拠は未だ得られていない.また,低強度の持久運動がユビキチン-プロテアソーム系におけるシグナル伝達因子に及ぼす影響も明らかではない.本研究では,TNF-α,及び筋特異的ユビキチンリガーゼE3の1つであるatrogin-1/MAFbxを指標にして,長期間の持久運動による筋萎縮予防効果を検証した.【方法】 ICR系雄マウスを6週間の後肢非荷重群(HU),後肢非荷重期間中に持久運動を実施した群(HU+Ex),及び対照群に区分した.HU+Ex群における持久運動にはトレッドミルを用い,分速18mの走行運動を1日1時間,週に6回の頻度で,6週間の実験期間を通じて実施した.最後の持久運動終了24時間後に腓腹筋を摘出し,筋湿重量を測定後に凍結保存した腓腹筋外側頭の凍結切片を作製し,SDH染色を施し,遅筋線維,及び速筋線維における筋線維横断面積とSDH活性を測定した.腓腹筋内側頭は,ELISA法によるTNF-αタンパク質発現量の測定と,定量リアルタイムPCR法によるTNF-α,及びatrogin-1/MAFbxのmRNA発現量の測定に用いた.得られた測定値の統計処理には一元配置分散分析とTukey-Kramerの多重比較検定を用い,有意水準は5%未満とした.【倫理的配慮、説明と同意】 全ての実験は所属施設における動物実験に関する指針に従い,動物実験委員会の許可を得た上で実施した.【結果】 HU群の筋湿重量と筋線維横断面積は対照群に比べて有意に減少したが,HU+Ex群はHU群より有意に高値を示した.また,HU群の筋線維におけるSDH活性は,遅筋線維および速筋線維ともに,対照群に比べて有意に低値を示したが,HU+Ex群はHU群より有意に高値を示した.TNF-αタンパク質発現量に関して,HU群では対照群に比べて有意に増加したが,HU+Ex群ではその過剰発現が抑制された.TNF-αとatrogin-1/MAFbxのmRNA発現量に関して,HU群では対照群に比べて有意に増加したが,HU+Ex群ではHU群より有意に減少した.【考察】 長期的な持久運動は非荷重に伴う筋萎縮の予防に有効であり,萎縮筋におけるTNF-αとatrogin-1/MAFbxの過剰発現を抑制し,ユビキチン-プロテアソーム系を介して筋萎縮の軽減が得られることを明らかにした.TNF-αはp38MAPK経路を介してatrogin-1/MAFbxやMuRF1などの筋特異的ユビキチンリガーゼE3の発現を誘導しているとされており,ユビキチン-プロテアソーム系におけるシグナル伝達経路の上流因子である.本研究で行った持久運動の強度は,先行研究で筋萎縮が軽減したと報告されている運動に比べて軽度であったにもかかわらず,同程度の筋萎縮予防効果が得られた.低強度の持久運動でも筋萎縮予防効果が得られたのは,廃用性筋萎縮に最も関与するタンパク質分解系の経路であるユビキチン-プロテアソーム系の上流因子を抑制したことに起因すると考えられる.また,持久運動は廃用性筋萎縮に伴う筋線維におけるSDH活性の低下を軽減したことから,ミトコンドリアにおける酸化的リン酸化を維持し,ATP合成の機能維持や活性酸素種の軽減にも有効である可能性が示唆された.活性酸素種は炎症性サイトカインであるTNF-αと同様に,筋線維におけるミトコンドリア由来のアポトーシスを誘導する因子であるとされている.長期的な持久運動はミトコンドリアに局在するSDH活性を維持したことから,ミトコンドリア機能を維持したことで,廃用に伴って増加する活性酸素種の発現を軽減し,筋線維のアポトーシス抑制にも影響を及ぼした可能性が示唆される.【理学療法学研究としての意義】 本研究の結果は廃用性筋萎縮予防に対する持久運動の有効性を示した.また,長期間の安静が予想されるにもかかわらず,高強度のレジスタンス運動が禁忌である場合等における運動療法プロトコルの作成に貢献すると考える.

収録刊行物

  • 理学療法学Supplement

    理学療法学Supplement 2011 (0), Ab1117-Ab1117, 2012

    公益社団法人 日本理学療法士協会

キーワード

詳細情報 詳細情報について

  • CRID
    1390282680550722560
  • NII論文ID
    130004692541
  • DOI
    10.14900/cjpt.2011.0.ab1117.0
  • 本文言語コード
    ja
  • データソース種別
    • JaLC
    • CiNii Articles
  • 抄録ライセンスフラグ
    使用不可

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