新型携帯用プラスチック角度計の開発と測定精度の検討

DOI
  • 永崎 孝之
    九州看護福祉大学 看護福祉学部 リハビリテーション学科
  • 加藤 浩
    九州看護福祉大学 看護福祉学部 リハビリテーション学科
  • 岡田 裕隆
    九州看護福祉大学 看護福祉学部 リハビリテーション学科
  • 矢口 潤哉
    酒井医療株式会社

抄録

【はじめに】 関節可動域(range of motion:ROM)を定量的に測定する機器として角度計が一般的に用いられている。臨床におけるROM測定では、測定する関節にあわせて角度計を使い分けている。つまり軸が長い角度計(東大式角度計など)は、対象指標に適合させ易く視認性が高いため、大関節の測定において正確な角度を測定できるが、小関節の測定には適さない。また嵩張るため携帯には不向きである。逆に軸が短い角度計(携帯用プラスチック角度計など)は、小関節の測定には適しているが、大関節の測定は軸が短いため誤差が生じ易いとされている。しかし携帯できるため場所を問わず測定することができる。このように角度計それぞれに一長一短がある。今回、大関節を含めたほとんどのROM測定に対応可能となる新型携帯用プラスチック角度計(新型角度計)を産学連携共同研究により開発した。その構造は、従来の全円型携帯用プラスチック角度計の一方の自由端に円柱形の回転する角度つき円盤(回転角度盤)を新たに取り付け、その中に鋼球を配置する構造である。また原理として、鋼球が重力により常に鉛直方向に静止することを利用して計測する方法をとった。つまり測定する基本軸に新型角度計をあわせ、回転角度盤の0°の目盛を鋼球が鉛直方向に静止するところに合わせる。その上で移動軸に新型角度計をあわせれば回転角度盤は同時に移動するが、中に配置した鋼球だけは常に鉛直方向に静止するので鋼球がおちる目盛がROMとなる。さらに測定の際、新型角度計の基本軸、移動軸を伸ばして一直線上に配置すれば従来の倍の長さの軸が確保でき、指標に適合し易く視認性も向上するためさらに測定誤差を減じることが期待できる。この原理に基づき開発した新型角度計について、測定精度を検討したので報告する。【方法】 新型角度計の測定精度を検討するため、東大式角度計との比較検討を行った。方法は、肋木を利用し設定した肩関節屈曲75°・100°・110°について、本学学生15名を検者とし、それぞれ3回、5°単位でROM測定を行った。得られたデータより、級内相関(ICC)を用いて検者内信頼性および検者間信頼性を求めた。統計ソフトはSPSS Statistics 19を用い、すべての検定において危険率5%未満を有意とした。さらに肩関節屈曲75°・100°・110°をそれぞれ真値として平均2乗誤差(MSE)を求めた。なお検者間信頼性およびMSEについては、5°単位で計測していることを考慮し、3回の測定値の平均でなく、3回目の測定値を各15名の代表値として統計処理を行った。【説明と同意】 本研究はヘルシンキ宣言に沿ったものであり、研究に先立ち本学学生には本研究の目的と方法を説明し、参加への同意を得て研究を実施した。【結果】 15名における検者内信頼性および検者間信頼性は、新型角度計はICC(1,1)ρ=0.929~1.000(p<0.01)、ICC(2,1)ρ=0.968(p<0.01)、東大式角度計はICC(1,1)ρ=0.947~0.993(p<0.01)、ICC(2,1)ρ=0.971(p<0.01)であった。さらにMSEは、新型角度計は、75°±5.0°、100°±6.0°、110°±4.0°、東大式角度計は、75°±5.0°、100°±8.0°、110°±6.0°であった。【考察】 今回の結果より新型角度計は検者内、検者間信頼性ともに高く、MSEにおいても最大で誤差が±6.0°と、従来言われているROM測定誤差と差がないことが分かった。これにより新型角度計は大関節のROM測定においても、測定精度(信頼性)は高いと示唆された。その理由として、1)軸(基本軸)が鋼球により正確に規定できること、2) 軸が長く設定できることにより移動軸の視認性が向上したこと、3)従来のROM測定の操作である、(1)他動運動により移動軸(肢)を操作する、(2)基本軸をあわせる、(3)移動軸をあわせる、(4)目盛を読む、の4つの操作が、基本軸をあわせることを事前に行うことにより3つに省略できたこと、が挙げられる。今後従来のプラスチック型角度計との比較など、信頼性や妥当性についてさらに検証していきたい。【理学療法学研究としての意義】 今回の新型角度計は、臨床において新人理学療法士など経験の浅い場合や、軸の長い角度計を持ちあわせていない時などにおける大関節ROM測定の際の測定誤差縮小に利用できる。その意味から本研究の理学療法評価への貢献度は高く、理学療法研究としての意義は大きいと思われる。

収録刊行物

  • 理学療法学Supplement

    理学療法学Supplement 2011 (0), Ad0810-Ad0810, 2012

    公益社団法人 日本理学療法士協会

詳細情報 詳細情報について

  • CRID
    1390001205573499776
  • NII論文ID
    130004692621
  • DOI
    10.14900/cjpt.2011.0.ad0810.0
  • 本文言語コード
    ja
  • データソース種別
    • JaLC
    • CiNii Articles
  • 抄録ライセンスフラグ
    使用不可

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