慢性期脊髄損傷不全麻痺者に対するロボットスーツHALを用いた歩行練習による身体機能改善効果

DOI
  • 吉川 憲一
    茨城県立医療大学大学院保健医療科学研究科 茨城県立医療大学付属病院理学療法科
  • 水上 昌文
    茨城県立医療大学保健医療学部理学療法学科
  • 佐野 歩
    茨城県立医療大学大学院保健医療科学研究科 茨城県立医療大学付属病院理学療法科
  • 古関 一則
    茨城県立医療大学付属病院理学療法科
  • 浅川 育世
    茨城県立医療大学保健医療学部理学療法学科
  • 菅谷 公美子
    茨城県立医療大学付属病院理学療法科
  • 吉川 芙美子
    茨城県立医療大学付属病院理学療法科
  • 前沢 孝之
    茨城県立医療大学付属病院理学療法科
  • 海藤 正陽
    茨城県立医療大学付属病院理学療法科
  • 齋藤 由香
    茨城県立医療大学付属病院理学療法科
  • 岩本 浩二
    茨城県立医療大学保健医療学部理学療法学科
  • 田上 未来
    茨城県立医療大学大学院保健医療科学研究科
  • 大瀬 寛高
    茨城県立医療大学付属病院診療部
  • 居村 茂幸
    茨城県立医療大学大学院保健医療科学研究科 茨城県立医療大学保健医療学部理学療法学科

抄録

【はじめに、目的】 CYBERDYNE株式会社により開発されたロボットスーツHAL福祉用(以下HAL)は筋活動電位,足底の荷重分布,関節の角度情報を基に,アクチュエータによって関節トルクをアシストする機器であり,生活支援機器に位置づけられる.HALに関する報告は,脳卒中片麻痺者を対象とし,その有効性を示唆するものが散見されるが,HALを歩行練習機器として位置づけ,身体機能の改善効果を報告した研究はない.本研究では慢性期脊髄損傷不全麻痺者を対象に,HAL装着下における継続的歩行練習前後の身体機能及び歩容変化を比較検討し,HALを用いた歩行練習の身体機能改善効果を検証する事を目的とする.なお本研究は財団法人茨城県科学技術振興財団による生活支援ロボット研究開発推進基金により実施されている研究の一部である.【方法】 対象は受傷後13年の脊髄損傷(Th12不全対麻痺)30代男性.ASIA key muscleによる残存高位L2,AISの段階Cであり,下肢筋力はMMTで股屈曲4+/4,膝伸展4+/4,以下0である.歩行は両ロフストランド杖,プラスチック型短下肢装具を使用しての二点歩行が可能であり,日常生活の移動には車いすを用いていた.介入は,まずHAL未装着でトレッドミル歩行練習を7週間(以下A1期),続いてHAL装着下でトレッドミル歩行練習を6週間(以下B期),最後に再度HAL未装着でトレッドミル歩行練習を6週間(以下A2期)実施し,練習頻度は週3回とした.練習中の歩行速度は,快適速度にて連続歩行を上限30分として実施した.練習の中断基準は,心拍数140以上,Borg14以上,疼痛,ふらつき,眩暈,疲労の訴え等がみられた際は3分間の休憩時間を設けた.中断時に総歩行時間が20分未満の場合は練習を再開し,総歩行時間が20分以上又は30分に達した時点で終了した.休憩後に理学療法中止基準に基づく身体所見がみられる際も終了とした.身体機能評価はA1期直前,A1期直後,B期直後,A2期直後に実施し,評価項目は大腿周径(膝上5cm,10cm),膝最大伸展トルク(BIODEX system 4を用い,膝屈曲60度位の等尺性収縮にて計測),静止立位時の両側足圧重心累積移動距離(下肢荷重計G-620 (アニマ社製)を使用)を計測した.更に,最大努力速度による平地歩行の動画を矢状面から撮影し,動画解析ソフトFrame-DIAS2(DKH社製)を用いて5歩行周期分の左右立脚相の割合を算出した.算出した立脚相割合のデータは一要因反復測定分散分析(P<0.05)により検討した.【倫理的配慮、説明と同意】 本研究は本学倫理委員会の承認を得,対象者は公募とし,研究の説明の後に書面にて同意を得た後に実施した.【結果】 大腿周径(上5cm)は,右がA1前375mm,A1後395,B後405,A2後415,左はA1前392mm,A1後405,B後420,A2後420であり,左右共にA1後,B後,A2後で増加した.大腿周径(上10cm)は右がA1前390mm,A1後405,B後423,A2後433,左がA1前410mm,A1後420,B後440,A2後450であり,左右共にA1後,B後,A2後で増加した.膝関節最大伸展トルクは右がA1前75.7Nm,A1後86.4,B後87.2,A2後89.2,左がA1前113.5,A1後119.7,B後126.3,A2後131.7であり,左右共にA1後,B後,A2後で増加した.両足圧中心累積移動距離はA1前78.4cm,A1後75.0,B後54.5,A2後50.9であり,A1後に比しB後に著減がみられた.最大努力平地歩行時の立脚相の割合の平均値は右がA1前60.8%,A1後61.0,B後64.3,A2後63.9でありA1後に比してB後で有意に増大し,A1後に比しA2後に有意に増大する傾向を示した.左はA1前67.7%,A1後67.6,B後66.6,A2後64.4でありA1後に比しA2後に有意に増大した.【考察】 大腿周径及び膝関節最大伸展トルクは,各評価時期にて階段状に増大した.これは,通常のトレッドミル歩行練習とHAL使用下での歩行練習が同様の膝関節伸展筋力の増強効果を有したことを示唆している.また,両側足圧中心累積移動距離はB後に著しく低下し,バランス能力改善を示唆している.更に,最大努力平地歩行時の右立脚時間の割合もB後に有意に増大し,左右立脚時間の対称性に改善が認められた.これらから,膝伸展筋力の増大による支持性向上に加え,HAL装着下での歩行練習効果として立脚時間の左右対称性の改善をきたし,弱側である右下肢へ荷重がし易くなったことがバランス能力の改善に繋がったものと推察した.B期後半に対象者から,トイレ移乗等で右足に体重がかけ易くなった,との発言も得られた.加えて,A1後及びA2後の立脚時間割合に有意差を認めたという点から,HAL装着下での練習で習得した歩行パターンがA2期終了時まで持続したことを示しており,HAL装着による歩行練習に運動学習効果を有する可能性を示唆するものと推察した.【理学療法学研究としての意義】 本研究は生活支援機器であるHAL福祉用の理学療法機器としての有効性を示唆できたことに意義があり,新たな理学療法体系を切り開くための第一歩でもある.

収録刊行物

  • 理学療法学Supplement

    理学療法学Supplement 2011 (0), Be0021-Be0021, 2012

    公益社団法人 日本理学療法士協会

詳細情報 詳細情報について

  • CRID
    1390001205572383104
  • NII論文ID
    130004692847
  • DOI
    10.14900/cjpt.2011.0.be0021.0
  • 本文言語コード
    ja
  • データソース種別
    • JaLC
    • CiNii Articles
  • 抄録ライセンスフラグ
    使用不可

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