エアマットレスの硬さの変化が咳嗽力と肺機能に与える影響

DOI
  • 上川 紀道
    広島医療保健専門学校 理学療法学科 広島大学 大学院保健学研究科
  • 伊藤 祥史
    広島医療保健専門学校 理学療法学科
  • 松木 良介
    広島大学 大学院保健学研究科 広島大学病院 診療支援部 リハビリテーション部門
  • 大浦 啓輔
    広島大学 大学院保健学研究科 福山循環器病院 リハビリテーション課
  • 堂面 彩加
    広島大学 大学院保健学研究科
  • 小西 華奈
    広島大学 大学院保健学研究科
  • 對東 俊介
    広島大学病院 診療支援部 リハビリテーション部門
  • 高橋 真
    広島大学 大学院保健学研究科
  • 関川 清一
    広島大学 大学院保健学研究科
  • 濱田 泰伸
    広島大学 大学院保健学研究科

抄録

【目的】 身体状況の悪化,病態の進行,絶対安静のために随意的な体動が困難な患者,特に呼吸機能障害を有する高齢者や神経筋疾患患者では,身体状況を悪化させないために効率よく痰を喀出することが重要である.一方,こうした患者においては褥瘡を予防する目的でエアマットレスが導入されることが多いため,通常のマットレスより柔らかいエアマットレスが痰の喀出に与える影響を知ることは重要である.しかしながら,エアマットレスの硬さと咳嗽力や肺機能との関係についてはこれまでに明らかにされていない.本研究は,健常若年男性を対象として,エアマットレスの硬さと,仙骨部体圧,咳嗽力の指標となる咳の最大流量(Cough peak flow:CPF)および肺機能の関係を検討し,ベッド上背臥位での有効な咳嗽に寄与するエアマットレスの硬さを明らかにすることを目的とする.【方法】 健常若年男性20名(年齢25.2±5.4歳,身長173.5±6.7cm,体重65.5±8.7kg,BMI21.7±2.4kg/m2,体脂肪率19.1±5.2%)を対象とした.エアマットレス(GRANDE・molten)をHard,Normal,Softの3段階にランダムに変更し,各硬さで背臥位にて仙骨部体圧,CPF,肺機能(FVC,FEV1.0)を測定した.仙骨部体圧の測定には簡易式体圧・ずれ力同時測定器(PREDIA MEA・molten)を,CPFの測定にはピークフローメータ(ASSESS Peak Flow Meter・PHILIPS RESPIRONICS)を用い,肺機能検査にはスパイロメータ(マイクロスパイロHI-701・日本光電)を使用した.仙骨部体圧は5分間の安静後の数値を採用し,CPFと肺機能の測定は各硬さで3回行い最大値を採用した.エアマットレスの硬さの間の比較には,一元配置分散分析を用いてTukey法で多重比較を行い,CPFとFVC,FEV1.0との関係はPearsonの相関分析を行った.統計解析には統計ソフト(SPSS ver12.0・SPSS Japan)を使用し,有意水準は5%未満とした.【説明と同意】 測定の趣旨・方法について口頭および書面にて説明し同意を得た.本研究は広島大学大学院保健学研究科心身機能生活制御科学講座研究倫理委員会の承認(承認番号:1127)を得て実施した.【結果】 仙骨部体圧はHard 30.4±6.5mmHg,Normal 28.0±5.8mmHg,Soft 23.3±5.0mmHgであり,3群間で有意差を認めた(p<0.01).CPFはHard 503.0±72.8L/min,Normal 470.5±65.8L/min,Soft 454.5±76.0L/minで,HardとNormal,Softそれぞれに有意差を認めた(p<0.01).FVCはHardとSoftの間に有意差を認めたが(p<0.05),FEV1.0はすべての硬さの間で有意差を認めなかった.また,CPFとFVC(Hard,r=0.45,p<0.05;Normal,r=0.40,n.s.;Soft,r=0.52,p<0.05),CPFとFEV1.0(Hard,r=0.64,p<0.01;Normal,r=0.56;p<0.01;Soft,r=0.68,p<0.01)の間にそれぞれ相関を認めた.仙骨部体圧は他の項目との間に相関を認めなかった.【考察】 先行研究では肢位の違いがCPFに与える影響について検討されており,吸気量の影響により臥位より坐位でCPF値が有意に高いことが報告されている.しかしながら,同一肢位において環境因子が与える影響はこれまでに検討されていない.本研究は肢位を背臥位に統一し,エアマットレスの硬さを変更してCPFを測定した.CPF値はHard,Normal,Softの順に高値を示し,HardとNormal,Softそれぞれに有意差を認め,有効な咳嗽を発生させるためにはエアマットレスの硬さを高く設定することが重要であると示唆された.今後,背臥位での咳嗽発生には環境因子の影響を考慮する必要があると思われるが,CPFに影響を与える他の因子についても研究していく必要がある.【理学療法学研究としての意義】 健常若年男性において背臥位でのエアマットレスの硬さと咳嗽力の関係を検討し,硬さを高く設定することで有効な咳嗽が可能となることが明らかとなった.本結果は,呼吸機能障害を有する高齢者や神経筋疾患患者などに対して,背臥位での咳嗽指導を行う際の効果的なエアマットレスの硬さを決定するための一助となると考える.

収録刊行物

  • 理学療法学Supplement

    理学療法学Supplement 2011 (0), Da0982-Da0982, 2012

    公益社団法人 日本理学療法士協会

詳細情報 詳細情報について

  • CRID
    1390282680550716928
  • NII論文ID
    130004693260
  • DOI
    10.14900/cjpt.2011.0.da0982.0
  • 本文言語コード
    ja
  • データソース種別
    • JaLC
    • CiNii Articles
  • 抄録ライセンスフラグ
    使用不可

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