側腹筋の筋力増強を図り強制呼気量の増加を認めた脳卒中片麻痺の一症例

DOI
  • 黒宮 誠司
    医療法人瑞心会渡辺病院リハビリテーション科
  • 壹岐 英正
    医療法人瑞心会渡辺病院リハビリテーション科

抄録

【はじめに,目的】 咳嗽は強力な強制呼気運動を必要とし,その運動には腹斜筋,腹横筋といった側腹筋の収縮が必要である.さらに脳卒中片麻痺者における咳嗽力の低下は誤嚥性肺炎の原因となる(Smith et al 2001).しかし脳卒中片麻痺者は強制呼気時の筋活動が低下すること(Fugl-Meyer&Griemby,1984)は知られているものの,側腹筋の筋萎縮に着目しアプローチしている報告は少ない.そこで今回は脳梗塞左片麻痺者に対し,強制呼気量増加の目的で側腹筋に対し筋力増強を図り良好な結果を得たので報告する.【方法】 対象は約10か月前に脳梗塞左片麻痺を発症し,誤嚥性肺炎を併発し入院となった50 歳代の男性1名である.SIAS体幹機能の腹筋力および垂直性テストは共に0点,MMTは,腹直筋2,腹斜筋は1,改訂長谷川式簡易知能評価スケールは21点,FIMは,運動項目全て1点であった.運動内容は側腹筋の筋力増強運動として,腹部の引き込み動作であるDraw-inおよび腹部の押し出し動作であるDraw-out,介助下での体幹屈曲運動,回旋運動を行った.運動負荷量は,毎週最大反復回数を計測しその60%の回数を2セットとした.また全期間を通して,寝返りおよび起き上がり動作,坐位保持の訓練を約20分行った.介入期間は週5回とし,計10週間行った.筋厚の測定は超音波画像診断装置(TOSHIBA社製SSA-660,Bモード7.5MHz)を使用し,腹横筋,内・外腹斜筋の各筋とこれらを合わせた側腹筋の筋厚を麻痺側,非麻痺側に分けて行った.プローブ位置は吉田ら(2011)の報告をもとに腸骨稜直上とし,腋窩線上における横断面画像において腹横筋,内・外腹斜筋を撮影できる位置とした.撮影肢位は背臥位の安静呼気終末位とした.測定頻度は週1回とした.筋厚は,各筋の最表層から最深層までの直線距離を,また側腹筋については外腹斜筋の最表層と腹横筋の最深層を結んだ直線距離を抽出し,4回の平均値を採用した.また強制呼気量の測定は電子スパイロメータ(フクダ電子社製,SP-450A)を使用し肺機能検査を行った.呼吸機能の指標としてVC,FVC,%VC,FEV1%G,FEV1%,PEFを用いた.測定肢位は座位とし,測定は週に1回測定し,3回の最大値を採用した.分析は各週の変化を記述統計にて行った.【倫理的配慮,説明と同意】 対象には研究の趣旨を十分に説明し同意を得た.【結果】 非麻痺側の側腹筋は介入時7.2±0.1mmから10週目14.4±0.5mmと上昇した.麻痺側の側腹筋は介入時8.1±0.2mmから10週目13.8±0.2mmへと上昇した.記述統計では,傾きが6~7週に向上した.特に7週目で非麻痺側の腹横筋厚増加がみられた.肺機能検査ではFVCは0.83Lから1.11L,FEV1は0.67Lから0.99Lへと上昇し,PEFは0.48L/sから1.44L/sへと上昇した.VC,%VC,FEV1%Gに変化はみられなかった.記述統計では,FVCおよびFEV1は7週から,PEFは8週から向上がみられた.【考察】 今回の結果から側腹筋厚増加および強制呼気量増加がみられた.金子ら(2005)は健常成人の側腹筋厚を測定し,安静呼気において21.1±3.5mmと報告しており,本症例は介入時に明らかな筋萎縮を認めていた.しかし6~7週後に非麻痺側の腹横筋を主とした側腹筋厚増加が見られ,強制呼気の指標であるFVCとFEV1の増加,また8週後には随意的咳嗽力の指標であるPEFの傾き増加を認めた.宮地ら(2011)は高齢者のサルコペニアに対する筋力増強効果についてシステマティックレビューを行い,1RMの80%の負荷を週3回行い,約8週から筋力増強を認めるとしている.本症例は介入時の筋力低下が著明であったため持久性の改善も考慮して,運動の最大反復回数に対し60%の負荷を行った.そして最大反復回数を毎週測定することで適度な負荷量を与え,結果として先行研究と同様の結果を得た.これらより,誤嚥性肺炎を併発した脳梗塞片麻痺者の本症例において,側腹筋厚は減少しており,適度な運動によって筋厚増加および強制呼気量増加が図ることが出来た.本研究の限界としては,症例報告であるため結果が一般化できていない.今後は症例数を増やすこと,もしくはシングルケースデザインの蓄積によって効果を一般化していきたい.【理学療法学研究としての意義】 誤嚥性肺炎を併発する脳卒中片麻痺者に対し,側腹筋の筋力増強を図ることは,強制呼気量増加を図る可能性がある.

収録刊行物

  • 理学療法学Supplement

    理学療法学Supplement 2011 (0), Db0562-Db0562, 2012

    公益社団法人 日本理学療法士協会

詳細情報 詳細情報について

  • CRID
    1390001205573712896
  • NII論文ID
    130004693302
  • DOI
    10.14900/cjpt.2011.0.db0562.0
  • 本文言語コード
    ja
  • データソース種別
    • JaLC
    • CiNii Articles
  • 抄録ライセンスフラグ
    使用不可

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