理学療法士の臨床現場からみた物理療法の現状

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抄録

【はじめに】 物理療法は、運動療法や義肢装具療法、ADLトレーニング等とともに理学療法の根幹をなす治療法である。臨床においても運動療法と同じく臨床推論を基盤として、患者を評価し病態仮説を立て種々の物理療法機器を選択し患者治療に活かされるべきである。しかし、我々理学療法士(以下、PT)が物理療法をどのように捉え治療に役立てているか不明な点が多い上、臨床での物理療法の使用頻度や使用状況について調査を行った報告は少ない。そこで、今回我々は臨床における物理療法の現状を把握するため、PTに対して物理療法に関するアンケート調査を行った結果、興味深い知見を得ることが出来たので考察を加え報告する。【対象及び方法】 対象は、平成21年度日本理学療法士協会会員名簿に記載のある徳島県理学療法士会に属する徳島市内57施設のPT223名である。方法は郵送によるアンケート調査とした。平成23年6月20日から7月20日までの1ヶ月間に独自に作成したアンケートを対象者に郵送した。アンケートの調査内容は現在の物理療法実施の有無、総担当患者における物理療法の実施頻度、PTの物理療法実施時間、物理療法機器の選定とその実施目的、物理療法に関する興味、診療報酬と物理療法に関する項目等であり、それらの結果について検討した。また運動療法と物理療法の重要度についてもVisual Analog Scale(以下、VAS)を用いて比較検討した。統計学的検討にはカイ二乗検定とt検定を用い有意水準は5%未満とした。【倫理的配慮、説明と同意】 対象者に対しアンケートの実施に関する十分な説明を書面にて行い返信をもって同意を得た。【結果】 アンケートの回収結果より43施設156名(男性:94名、女性:62名、平均経験年数:8.9±7.0年)のPTから回答が得られた(有効回答率:70%)。施設の内訳(重複回答)は急性期病院24名(12%)、回復期病院60名(30%)、慢性期病院80名(40%)、老人保健施設15名(8%)、その他19名(10%)であった。現在の物理療法実施の有無に関しては、物理療法を実施している者126名(81%)、実施していない者30名(19%)と有意に物理療法を実施している者が多い結果となった(p<0.05)。総担当患者における物理療法実施頻度は68名(54%)が3割以下と回答し、物理療法実施時間は0分が36名(28%)、1-30分が73名(58%)であった。物理療法機器の選定は、ホットパック124名、腰椎牽引86名、頸椎牽引81名、経皮的電気刺激療法64名、バイブラバス54名の順に多く、その実施目的は疼痛軽減、循環改善、リラクゼーションが主であった。物理療法に関する興味に関しては、学生時代に興味があると回答したものは68名(44%)で、興味がないと回答したものは88名(56%)であった。一方、卒業後に興味があると回答したものは88名(56%)、興味がないと回答したものは68名(44%)であった。診療報酬と物理療法に関する設問では、91名(58%)のPTが診療報酬が上がっても物理療法を使用するとは限らないと回答した(p<0.05)。運動療法と物理療法の重要度については、運動療法VASは88.6±14.8mm、物理療法VASは59.2±24.7mmと有意に運動療法が高値を示した(p<0.05)。【考察】 アンケート結果よりPTの多くは物理療法を実践しているが、総担当患者における実施頻度が少ないことや実施時間が短いこと、物理療法よりも運動療法を重視していることが認められた。また、学生時より卒業後の方が物理療法に関心が高く、診療報酬が上がっても必ずしも物理療法を使用するとは限らないという結果であった。これはPTが臨床推論を行う中で運動療法や物理療法の適応を判断し治療に役立てるために選択することが重要であることを示唆しており、今後は効果のある物理療法機器の開発や物理療法に精通していないPTにおいても簡易に行える治療手順等が確立されることが望ましく、運動療法と同じく臨床推論を基盤とした仮説検証作業を行う中で物理療法が選択出来るよう、臨床での物理療法トレーニングを行う機会や研修会等を増やすことも重要であると考える。【理学療法学研究としての意義】 本アンケート結果は第19回日本物理療法学会学術大会シンポジウムにて臨床現場の声として提言させて頂いた。本邦の物理療法は関連する学術論文や学会発表、各種講習会等が少ないことから現在の理学療法の中でも運動療法と比較すると積極的な使用がなされているとは言えない状況である。そういった中、臨床における物理療法の現状を知ることは、今後の物理療法教育や実践、物理療法機器の開発や発展に非常に重要であり本研究の意義は極めて大きいと考える。

収録刊行物

  • 理学療法学Supplement

    理学療法学Supplement 2011 (0), Fa0178-Fa0178, 2012

    公益社団法人 日本理学療法士協会

詳細情報 詳細情報について

  • CRID
    1390282680549095424
  • NII論文ID
    130004693651
  • DOI
    10.14900/cjpt.2011.0.fa0178.0
  • 本文言語コード
    ja
  • データソース種別
    • JaLC
    • CiNii Articles
  • 抄録ライセンスフラグ
    使用不可

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