振動刺激部位の違いが下腿三頭筋の筋緊張抑制効果に及ぼす影響

DOI
  • 中林 紘二
    武雄看護リハビリテーション学校理学療法学科
  • 松本 典久
    武雄看護リハビリテーション学校理学療法学科
  • 野見山 通済
    武雄看護リハビリテーション学校理学療法学科
  • 山本 裕宣
    武雄看護リハビリテーション学校理学療法学科
  • 兒玉 隆之
    福岡和白リハビリテーション学院理学療法学科
  • 福良 剛志
    福岡和白病院生理検査科
  • 甲斐 悟
    関西福祉科学大学保健医療学部リハビリテーション学科

書誌事項

タイトル別名
  • ─腱刺激と筋腹刺激の比較─

抄録

【はじめに、目的】 関節可動域制限の原因の一つとして、関節周囲筋の筋緊張亢進が知られている。骨格筋に振動刺激を負荷すると、脊髄内の介在神経細胞が活性化され、筋緊張が抑制される(Desmedt、1978)。また、臨床においても筋緊張亢進に対して振動刺激が利用され、その効果が報告されている(中野、2004)。その一方で、振動刺激の刺激条件の違いによって筋緊張の抑制効果に差が出ることも報告されている(Desmedt、1978)。よって、振動刺激を臨床応用していく場合には、様々な刺激条件の設定が不可欠となる。しかし、振動刺激を負荷する部位が腱部か筋腹部かによって筋緊張の抑制効果を比較している研究は、我々の知る限りでは見当たらない。そこで本研究では、振動刺激を負荷する部位の違いが筋緊張に及ぼす影響を明らかにすることを目的とした。【方法】 対象は、下肢に神経障害の既往がない健常男性15名(平均年齢23.2±4.4歳)とした。被検筋は左下腿三頭筋とした。全ての対象者に対して、下腿三頭筋の腱部に振動刺激を行うという条件(以下、腱刺激条件)と筋腹部に振動刺激を行うという条件(以下、筋腹刺激条件)を実施した。なお、各条件が結果に及ぼす影響を考慮して、各条件の実施には1日以上の間隔をあけた。振動刺激は市販されているHandy vibe(大東電気工業製)を用いた。腱刺激条件では、脛骨内果と腓骨外果を結んだ直線状にある下腿三頭筋の腱部に振動刺激を負荷した。筋腹刺激条件では、下腿の近位1/4の位置で下腿三頭筋の筋腹部に振動刺激を負荷した。刺激条件は、周波数76.6Hz、振幅2mm、刺激時間3分間とした。ヒラメ筋のH波とM波の導出には、誘発筋電図(VikingSelect、Nicolet社製)を用いた。誘発筋電図の刺激電極を膝窩部に設置し、脛骨神経に対して経皮的な電気刺激を行った。導出電極には表面電極を用い、関電極は内側のヒラメ筋上に、不関電極はアキレス腱の内側に貼付した。H波とM波の測定は5分間の安静臥床後に1回、各条件での実施直後に1回行った。求められたH波の最大振幅とM波の最大振幅から最大振幅比を求めた。各条件において、11段階のスケール(0:全く不快感がない、10:耐え難い不快感)を用いて振動刺激に伴う不快感の評価を行った。また、不快感を訴えた者に対しては、振動刺激終了15分後に再度評価を行った。統計処理には、統計処理ソフトウェアStatView-J5.0を使用した。等分散と正規性を確認するために、Bartlett検定とKolmogorov-Smirnov検定を行った。その後、H波およびM波の最大振幅比を従属変数として各条件(腱刺激条件、筋腹刺激条件)と測定時期(振動刺激前、振動刺激直後)を2要因とした反復測定二元配置分散分析を行った。また、post hoc testとしてTukey-Kramer法を行った。なお、有意水準は5%未満とした。【倫理的配慮、説明と同意】 ヘルシンキ宣言に基づき、全ての対象者には事前に本研究内容やリスク、参加の自由などの倫理的配慮について口頭および文書にて説明した。その上で研究への協力を求め、同意書に署名および捺印を得た。【結果】 腱刺激条件および筋腹刺激条件における最大振幅比は、振動刺激直後に低値を示した(p<0.01)。振動刺激直後の最大振幅比について、腱刺激条件と筋腹刺激条件で比較すると、腱刺激条件の方が最大振幅比は低値を示した(p<0.05)。全ての対象者で筋腹刺激条件時に不快感が強かった。不快感の強さは、3.13±1.68であった。なお、刺激終了15分後の時点で不快感を訴えたものはいなかった。【考察】 誘発筋電図で導出されるH波は、脊髄運動細胞の興奮性を示す指標として利用されている。実際、H波とM波の最大振幅比は、筋緊張が亢進している症例では高値を示す。今回、腱刺激条件および筋腹刺激条件において、振動刺激前と比較して振動刺激直後の最大振幅比が低値を示した。この結果から、下腿三頭筋の腱部および筋腹部に振動刺激を負荷すると、脊髄運動細胞の興奮性が抑制されることが明らかとなった。さらに、振動刺激直後の最大振幅比を各条件間で比較してみると、腱刺激条件の方が、振動刺激直後の最大振幅比はより低値を示した。このことから、振動刺激を負荷する部位によって、筋緊張の抑制効果に差が出ることが明らかとなった。また、振動刺激中の不快感は、筋腹刺激条件時に強かった。振動刺激終了15分後まで不快感が継続したものはいなかったが、今後、臨床応用していく際には、振動刺激時の不快感について配慮を行い、安全かつ効果的に治療を行う必要がある。【理学療法学研究としての意義】 臨床の治療場面において、腱部が損傷されている場合などでは、直接腱部を刺激することは難しい。今回、筋緊張の抑制効果は少なかったものの、筋腹部に振動刺激を負荷した場合にも筋緊張の抑制効果が認められたことは、臨床において振動刺激の適応が拡大することを示唆する。

収録刊行物

  • 理学療法学Supplement

    理学療法学Supplement 2011 (0), Fb0805-Fb0805, 2012

    公益社団法人 日本理学療法士協会

詳細情報 詳細情報について

  • CRID
    1390001205572372352
  • NII論文ID
    130004693665
  • DOI
    10.14900/cjpt.2011.0.fb0805.0
  • 本文言語コード
    ja
  • データソース種別
    • JaLC
    • CiNii Articles
  • 抄録ライセンスフラグ
    使用不可

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