ビギナーズセミナー8  生殖免疫学

  • 早川 智
    日本大学医学部病態病理学系 微生物学分野

書誌事項

タイトル別名
  • [Not Available].

この論文をさがす

抄録

個体の寿命が有限であることの必然として遺伝子は乗り物を次々に変えてゆく必要がある.バクテリアのように無性生殖で同一コピーを増やすことが最も手早くコストのかからない複製手段であるがプラスミドなどによる遺伝子交換には自から限界がある.雌雄両性による有性生殖の本質は世代ごとの遺伝子のシャッフリングにより,環境の変化,特にあらたな病原微生物の出現や変異に対する宿主の多様性を確保することにある.それには異なった遺伝的背景を有する個体間の情報交換が必須であり,さらに子宮内で胎児胎盤を育てる真胎生動物ではこれを許容するため特異免疫系と折り合いをつけねばならない.1953年,Medawarが免疫学的異物である胎児胎盤がなぜ拒絶されないのかという生殖免疫学の中心的命題を提起して半世紀以上が過ぎた現在でも,免疫学的妊娠維持機構は完全に解明されたとは言いがたい.胎児胎盤に対する寛容の破綻は習慣流産や妊娠高血圧症候群,早産の発症に関与するのみならず,母体の自己免疫疾患の発症や増悪に関与する.さらに,子宮内の免疫環境は生まれた児の生活習慣病やアレルギー疾患の発症要因となる.胎盤の免疫学的逃避機構は悪性腫瘍や病原微生物と多くの点で共通しており,臨床免疫学の複合領域における研究が期待される.

収録刊行物

詳細情報 詳細情報について

問題の指摘

ページトップへ