先天性心疾患の発症分子機構解明と臨床心臓発生学の発展

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  • Progress in Basic and Clinical Understanding of Cardiovascular Development Implicated in Molecular Mechanisms Underlying Congenital Heart Diseases

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抄録

心臓大血管の形態形成は時間的,空間的に秩序だった多くの過程の芸術的なオーケストレーションによって成立している.私たちが日常診療で遭遇する先天性心疾患の多くは,心臓大血管の特定の領域または段階の発生異常によって発症するものであるため,複雑な心臓大血管の発生をいくつかの領域または段階別に分けて詳細に解析する「臨床心臓発生学」は,先天性心疾患の成り立ちを理解するための科学として重要である.1990年代に心臓特異的転写因子の単離と遺伝子改変動物を用いた研究により,心臓大血管形態形成の分子生物学的基礎が次第に明らかになった.Nkx2.5/CsxとdHAND/Hand2は,左右心室の形成に重要な役割を果たす.また,22q11.2欠失症候群の分子遺伝学的解析と動物胚を用いて先天性心疾患を再現する研究の融合により,TBX1が本症候群の原因遺伝子であることが特定され,二次心臓領域に発現して心臓流出路の発生に重要な役割を果たすことが明らかになった.さらにポストゲノム時代の遺伝子解析法により,GATA6が心臓流出路異常の原因遺伝子として特定され,二次心臓領域細胞と心臓神経堤細胞の相互作用を制御する機構が解明された.細胞内カルシウムシグナルを制御するイノシトール3リン酸受容体が,サブタイプ特異的に心臓流入路および流出路の発生に関与する知見も得られた.複雑な心大血管形成を制御する多くの細胞・分子の相互作用から成るネットワークの解析,すなわち-From gene to morphology-の解明により,故高尾篤良教授によって語られた,“未来の”先天性心疾患の発症機構解明から予防医学・再生医療への応用が期待される.

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