パラサイト・宿主の比較生科学, 抗原虫薬探索, 遺伝子解析, そしてトリパノソーマ分子戦略の研究

  • 青木 孝
    順天堂大学医学部熱帯医学・寄生虫病学講座

書誌事項

タイトル別名
  • Comparative biochemistry of parasites and hosts, pyrimidine-biosynthetic (<i>pyr</i>) gene cluster, and trypanosomal molecular strategy

抄録

1970年代から2010年までに順天堂で私達が行ってきた研究について概括する. 当初, カイチュウと宿主の比較生化学的研究からはじめ, 核酸塩基ピリミジンde novo生合成経路の存在をパラサイトではじめて報告した. 同経路の第1酵素CPS IIの律速・調節機能は宿主と異なる特徴を示した. また, 腫瘍とパラサイトのピリミジン生合成, CPS IIについて生化学的類似および相違を異なる切り口からみることができた. 南米パラグアイ国において「Trypanosoma cruziとChagas病の研究」プロジェクトを立ち上げた経験から, それは当教室の研究テーマとなった. 本原虫のピリミジン生合成経路全6酵素をコードする5個のpyr遺伝子は, コンパクトなクラスター [pyr1-pyr3-pyr6/5 (融合遺伝子) -pyr2-pyr4] (25kb) としてゲノムDNAに存在することをはじめて示した. 代謝経路全体の遺伝子を含むこのようなクラスターはほかの真核生物にはみられない. 本遺伝子クラスターによってピリミジン生合成は保証され, それはトリパノソーマの増殖・病原性の基盤となっていると考えられる. したがって, これら6酵素の各タンパク質を標的とする新規化学療法の開発が期待され, X線構造解析や創薬研究が進みつつある. 他方, 本原虫は感染宿主細胞自身のアポトーシスを阻害することによって宿主からの排除をまぬがれ (生き残り), 能動的に宿主細胞を分子修飾・支配していくメカニズムの一端が明らかになった. また, 原虫・宿主細胞双方のゲノム情報が開示されたことによって, 双方の遺伝子や遺伝子産物 (タンパク質) の絡み合いの解析が可能となってきた. その線に沿って私達がT. cruziに見い出した「SPRING分子は本原虫が分泌し, 宿主細胞核に局在化され, ubiquitin ligase活性をもち, 多数の宿主タンパク質に影響するエフェクター分子」である可能性が高い. このような研究をさらに発展させ, パラサイトと宿主の分子同士, 遺伝子同士, 最終的にはゲノム同士の絡み合いを解析することによって, 寄生虫病の解明につなげていくことが期待される.

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被引用文献 (1)*注記

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参考文献 (37)*注記

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