癌の新規治療法の開発

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  • 丹沢 秀樹
    千葉大学大学院医学研究院先端がん治療学研究講座口腔科学研究領域

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抄録

癌治療における課題のうち,抗癌剤耐性,放射線耐性を克服する薬剤の開発・研究について,本講演でご紹介いたします。<br>私は,平成15年から5年間にわたり,21世紀COEプログラムの拠点リーダーとして,遺伝子治療,重粒子線治療,免疫治療など,腫瘍に対する最先端医療の開発とともに,実際に治療を行いました。遺伝子治療に関しては,外来性DNAやRNAは体内では不安定である上に,全身投与できる安全なベクターが開発されていないため局所投与しかできないという欠点があることを経験した。しかも,死亡例や白血病発症などの重篤な副作用が報告され,現在,世界的に遺伝子治療開発は下火になっている。重粒子線治療に関しては,いかに重粒子線であっても,耐性遺伝子があることをわれわれのグループが世界で最初に発見した。あくまでも局所療法であるために転移を有する症例は適応でないという大きな制約がある上に,高価な装置や設備が必要で,なおかつ,月単位の整備期間が必要なために稼働期間が短くなってしまうという運営上の事情もある。免疫療法に関しては,癌抗原の問題や,免疫記憶の問題が残されており,真に有効な治療法が未だ開発されていない。以上のようなことを鑑みて,私は,特別な設備を必要とせず,面倒な手続きも不要で,なおかつ安価な治療法として,薬剤に強く惹かれ,10年近くの間,教室員とともに真摯に研究に励んできた。幸いにも,抗癌剤耐性細胞株を和歌山県立医科大学歯科口腔外科学講座(藤田茂之教授)から提供していただけた。<br>研究成果の概略を以下に記す。<br>・新たな抗癌剤耐性遺伝子としてPDE3Bを同定した。PDE3B遺伝子は薬剤を細胞外に汲み出すABCトランスポーターを活性化させることを発見し,さらに,PDE3B遺伝子の阻害剤シロスタゾールを同定した。シロスタゾールはプレタールという名称で血小板凝集抑制剤として,末梢循環不全症の治療や,心筋梗塞予防剤として実臨床で用いられている薬剤である。<br>・新たな抗癌剤耐性機構としてAKR1C遺伝子ファミリーを同定した。AKR1Cファミリーは化学物質が細胞質から核内に侵入する際に脱水・還元を行ない不活化する一種の解毒酵素であることを明らかにした。このAKR1Cファミリーを不活化する薬剤としてメフェナム酸を同定した。メフェナム酸はポンタールという名称で鎮痛薬として常用されている薬剤であり,腫瘍治療の実臨床に使用可能である。現在,臨床試験実施中であるが,抗癌剤併用による有効性が確かめられた。<br>・放射線耐性機構を研究して,FGFR3遺伝子を同定した。FGFのレセプターであるFGFRは非常に種類が多い。しかし,それらの中でFGFR3が多種類の腫瘍で高発現し,放射線耐性と関連があることを明らかにした。残念ながら,そのメカニズムは未だ明らかにできていないが,おそらく,組織の修復機構と関係があるものと見込んでいる。このFGFR3の阻害剤として低分子化合物PD173074(sigma-aldrich社)を見出した。毒性試験を含め,マウスを用いた前臨床試験まで終了している。

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