典型的な心原性ショックの症状なく多臓器障害に至った急性心筋梗塞の1例

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タイトル別名
  • Multiple organ dysfunction caused by acute myocardial infarction without typical symptom of cardiogenic shock

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抄録

症例は58歳の男性。3日前から続く嘔吐,下痢,倦怠感を主訴に診療所経由で他院を受診した。意識清明で血圧151/87 mmHg,脈拍64/分,呼吸数15/分とバイタルサインは安定していたが,著明な肝腎機能障害とDIC(disseminated intravascular coagulation)を認めた(BUN 98 mg/dL,Cr 4.3 mg/dL,AST 9,160 IU/L,ALT 3,590 IU/L,Plt 10.1×104/µl,PT-INR 2.81)。また心電図,心エコーにて下壁梗塞と診断された。心不全やショックの所見はなかったものの右冠動脈近位部完全閉塞,左主幹部75%狭窄を認めたため大動脈内バルーンポンピング(intra-aortic balloon pumping: IABP),一時的ペースメーカー挿入のうえ当センターへ転院となった。経過中,血圧低下や胸部症状は皆無であった。下壁+右室心筋梗塞と診断したが,典型的な心原性ショックの所見はなかったため,病態を心筋梗塞だけで説明可能かは不明であった。補液,IABP,持続血液透析濾過(continuous hemodiafiltration: CHDF)による循環管理を行ったところ,著明な肝腎機能障害やDICは改善し,最終的に心筋梗塞による多臓器障害と診断した。第6病日にCHDFを離脱し,第7病日に冠動脈バイパス術を施行した。第39病日独歩退院した。右室梗塞,低左心機能に伴い,血圧は保たれていたものの低心拍出状態および体うっ血が数日間続いたことにより多臓器障害を併発したと考えられた。本例は多臓器障害を併発していたにもかかわらずショックの典型的な症状を欠いており,診断に苦慮した症例である。右室機能不全が主因の心原性ショックは非典型的な症状を呈することがあり,診断には注意が必要である。

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参考文献 (13)*注記

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