Temporal stemの損傷を随伴した被殻出血患者の理学療法経験

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抄録

【はじめに】Temporal stem(TS)とは側頭葉とその他の領域を繋ぐ白質経路の収束部を示し、鉤状束と下後頭前頭束が通過しているため、この部位の損傷によって多彩な高次脳機能障害を呈すると報告されている。TSという用語は、1978年にHorelによって初めて用いられたが、最近まであまり知られていない。近年の画像処理技術の進歩によって、神経心理学や解剖学の中で、白質経路の損傷が重要な意味をもつようになり再度注目されるようになった。しかしながら、理学療法分野での臨床報告は見当たらない。今回TSに損傷を認めた二症例の臨床経験について報告する。<BR>【症例紹介】症例1:83歳、女性。左被殻出血(開頭血腫除去術後)。画像所見として被殻,左内包後脚末尾,前障,最外包,島皮質ならびにTSに損傷を認めた。神経心理学的所見は、側頭葉症状としての半側空間無視,全失語の他に、前頭葉症状として感情失禁,夜間せん妄,奇声をあげる,暴力行為,動作維持困難,情緒不安定ならびに摂食拒否といった症状がみられた。健忘症候群の詳細は不明であった。初期より動作練習への拒否が強く、これは6ヶ月経過した時点でも残存しADLは全介助の状態から改善はなかった。暴力行為と夜間せん妄は落ち着き、また失語症にも改善を認めた。<BR>症例2:68歳、男性。右被殻出血,脳室穿破(開頭血腫除去術後)。画像所見として被殻,右視床,側頭極,TSの損傷を認めた。神経心理学的所見は、側頭葉症状としての半側空間無視(左聴覚刺激への反応性の低下)の他に、前頭葉症状としての病態認識の低下,注意障害,発動性低下を認めた。臨床上問題となるような健忘症候群は認めなかった。第80病日時点でも、自発性は乏しく、また立位や移乗動作では、転倒防止のために、健側優位に荷重するという注意を口頭指示によって常に促す必要があった。運動麻痺はBrunnstrom stage4まで改善したが、歩行は室内介助歩行レベルにとどまった。 <BR>【考察】両症例ともに被殻出血が外側から後方に進展しTSに損傷を及ぼしたと推察される。症状は側頭葉症状以外に前頭葉症状を認め、その原因は前頭葉への経路の機能的連結が断たれたためと考えられる。基本動作に改善が得られなった原因は、症例1では拒否,症例2では注意障害と発動性低下であり、両症例ともに長期的に残存した前頭葉症状が大きな阻害因子となったと考えられる。<BR>【まとめ】TS損傷の有無を確認することは、基本動作回復の予後予測をする上で極めて重要である。

収録刊行物

  • 理学療法学Supplement

    理学療法学Supplement 2004 (0), B0061-B0061, 2005

    公益社団法人 日本理学療法士協会

詳細情報 詳細情報について

  • CRID
    1390282680541357952
  • NII論文ID
    130005012347
  • DOI
    10.14900/cjpt.2004.0.b0061.0
  • 本文言語コード
    ja
  • データソース種別
    • JaLC
    • CiNii Articles
  • 抄録ライセンスフラグ
    使用不可

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