バリスムを呈した脳卒中片麻痺患者の理学療法経験

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抄録

【はじめに】バリスムは異常不随意運動の一つで、スピードの速い粗大な振幅の反復運動を呈する。視床下核の後遺症として出現することが知られており、多くは半身のみに出現することから、ヘミバリスムと呼ばれている。今回、視床下核(Luys体)の血栓に伴い、特に上肢に強いヘミバリスム症状を呈した患者の理学療法を経験したので、若干の考察を加えて報告する。<BR>【症例紹介】75歳、女性。平成15年2月24日発症。同日、脳血栓(右片麻痺)の診断にて当院入院。2月27日よりOT開始。3月6日よりPT開始となる。麻痺側上下肢に安静時にもバリスム症状が出現。動作時にさらに著明となった。著明な運動麻痺はなかったが、筋緊張は低緊張であり、上下肢体幹の支持性の低下が認められた。また表在・固有感覚も鈍麻しており、外部からの情報を得にくい状況であった。そのため、座位保持は可能であるが不安定であり、立位保持・歩行は困難な状態であった。PT開始時のADLは、食事と移乗動作が一部介助以外は全て全介助であった。6月22日、入浴以外のADLは監視下で可能となり自宅退院となる。<BR>【問題点】麻痺側上下肢および腹部の低緊張により、姿勢保持および動作への移行が困難。また、バリスム症状をコントロールできず、動作の不安定性に繋がっている。<BR>【理学療法経過】第1段階として、座位の中で体幹の安定を図り、徐々に末梢への動作に結びつけていった。座位の特徴として右側へ体幹が崩れ、全体に屈曲姿勢で骨盤は後傾位であった。これに対し体幹の抗重力伸展活動を高めながら上肢の活動性を高めるようにした。バリスム出現の特徴として、随意運動開始に伴い突如激しい運動が起こり、上下肢をまさに投げ出すような動作となる。従って、患者の動作に先行して、セラピストが運動をコントロールしながら、ゆっくりした動作から入るようにした。体幹の安定が図られたことで、動作への結びつきが可能になった。第二段階として、安定した歩行獲得するため、患者後方よりセラピストが腹部のトーンを高めながら、歩行訓練を行った。手すりなど上肢の支持があると、バリスムが増強するため、支持なしで行った。退院時には上下肢ともバリスム症状は軽減。監視下での歩行が可能となった。<BR>【考察】バリスムの発生メカニズムとしては、視床下核から淡蒼球内節に至る興奮性線維が障害され、視床が脱抑制をうける。その結果、視床から大脳皮質に至る興奮系が優位になりバリスムが生じる。本症例に対しては体幹を安定させながら徐々に末梢に治療を展開していった。姿勢コントロールの経路である皮質網様体脊髄路を賦活し、逆に皮質脊髄路の興奮性を抑えたことで、上肢の活動性が高まり、歩行の安定に繋がったと考えられる。また、バリスムは運動準備段階から出現することから、患者にゆっくりした動作の中で運動を学習させ、徐々に自律した運動に結び付けていく必要があることが示唆された。

収録刊行物

  • 理学療法学Supplement

    理学療法学Supplement 2004 (0), B0069-B0069, 2005

    公益社団法人 日本理学療法士協会

詳細情報 詳細情報について

  • CRID
    1390282680541377408
  • NII論文ID
    130005012355
  • DOI
    10.14900/cjpt.2004.0.b0069.0
  • 本文言語コード
    ja
  • データソース種別
    • JaLC
    • CiNii Articles
  • 抄録ライセンスフラグ
    使用不可

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