正常圧水頭症に対する髄液排除試験の前後における歩行能力の評価

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抄録

【目的】当院では正常圧水頭症(以下NPH)の疑われた症例に対し、髄液排除試験(以下tap-t)の前後で歩行能力の評価を行っている。これまで歩行障害症例の評価としては、連続した一定の距離を歩行させて歩行速度や歩容の変化を見るものが一般的であり、当院では10m歩行テスト(以下10m-t)を行なってきた。H16年に発表された特発性正常圧水頭症診療ガイドラインでは、歩行障害の評価法としてTimed “Up and Go” テスト(以下TUG-t)が推奨され、10m-tでは表れにくいNPHの歩行障害の特徴を反映しやすいとしている。しかし、そのエビデンスについては明確にされていない。そこで今回、tap-t前後の歩行能力の変化について、10m-t及びTUG-tを用いて比較検討した。<BR>【対象】NPHが疑われて入院した15名(男性9名、女性6名。平均年齢75.9±6.0歳)。特発性NPH疑い11名、二次性NPH疑い4名(SAH後1名、腫瘍後2名、脳出血後1名)。JNPHGS-Rにおける歩行障害のGrade2が7名、Grade3が8名であった。<BR>【方法】1.歩行能力の評価:tap-t前後(1週間以内の同日)にTUG-t及び10m-tを測定した。TUG-tは、椅子座位から3m前方の印を回って着座するまでの所要時間を計測した。10m-tは、10mの歩行路に前後1mの助走路を設け所要時間を計測した。両テストとも最大速度にて行ない、計測は1回とした。2.統計的検討:1)tap-t前後の所要時間について、各々Wilcoxon符号付順位和検定にて比較した。2)tap-t前後の所要時間から平均値を算出し、変化率を比較した。<BR>【結果】1)15名の所要時間を、各々tap-t前後で比較した結果、TUG-tにおける所要時間及び10m-tにおける所要時間の両者とも、tap-t前後で有意な改善が認められた(p<0.01)。2)15名の所要時間の平均値を算出しtap-t前後で比較した結果、TUG-t:tap-t前17.03秒→tap-t後13.46秒で変化率約21%、10m-t:tap-t前12.72秒→tap-t後10.77秒で変化率約15%であった。<BR>【考察】今回、TUG-t・10m-tともtap-t前後で有意な改善が認められたことから、両者ともNPHの歩行能力を反映しうるものと考えられた。また、tap-t前後の変化率を比較すると、10m-tに比しTUG-tの方が変化率は高く、よりNPHの歩行能力を鋭敏にとらえやすい評価法であるという可能性が示唆された。これはNPHの歩行障害が、起立や方向転換といったよりバランス能力を要求される動作において顕著に認められるという先行研究の結果を反映しているものと考えられた。

収録刊行物

  • 理学療法学Supplement

    理学療法学Supplement 2006 (0), B0157-B0157, 2007

    公益社団法人 日本理学療法士協会

詳細情報 詳細情報について

  • CRID
    1390001205568025344
  • NII論文ID
    130005013709
  • DOI
    10.14900/cjpt.2006.0.b0157.0
  • 本文言語コード
    ja
  • データソース種別
    • JaLC
    • CiNii Articles
  • 抄録ライセンスフラグ
    使用不可

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